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22 サボりはよくないだろう、生徒会長。

  「メールも電話も全部チェックしてるのに……圭人に近づく奴で俺が知らないなんて」    ちなみにみゃーみゃーさんは去年生徒会顧問だったので、会う機会がわりとあったりしました。会長込みでね。  会長の前で今回みたいに懐いていってお菓子をもらって怒られた。  お仕置きエッチというやつです。  望んでないです。  トラブルです。アクシデント!  まさかみゃーみゃーさんと話すのがアウトになるとは思いもしない。でも、見かけたら特攻するけどね。お仕置きが怖くてお菓子が食えるか。  エロいことをされたいわけじゃないけど、交尾しても孕まないし、死なないから、別にどうでもいい。わんわんの貞操観念が低いのかといえば違う。会長はオレ以外の相手がいるわけじゃないし病気持ってないし、アフターケアは念入りだから困ったりしないという話。   「ニワトリとは三年ぐらい前からの付き合い」 「付き合いって、お前、会長と付き合ってるんじゃないのかっ」 「オレをお前呼ばわりとは偉くなったなぁ? ああ?」 「わんわん落ち着け。年下には優しくしろって言われてるだろっ」    親指で内臓でも破壊してやろうかと思ったら、みゃーみゃーさんにたしなめられる。ですよねー。やらないってば、こんな人目のあるところで。   「先輩に対して敬語も使えないような、風紀守ってない風紀委員長とかムカつくので後輩イジメを趣味にしようかと思います」 「おい、西名……想像以上にご立腹だぞ。お前何したんだ」 「後輩イジメって……僕はそんなものに屈したりしな――」    みゃーみゃーさんが風紀委員長の口を手で押えた。オレのイライラゲージの上昇を感じているらしい。   「魁嗣(かいし)……わん、吉永連れて帰れ。特別に神様菓子やるから」    手作りのマフィン。  たぶん上にカボチャの種があるのはカボチャ味。  ハートのチョコがついているのはニンジン味。  神様はちゃんと外側から見て味が分かるように目印をつける。  なんでニンジンがハートなのかと言えば赤いかららしい。  ハート、心臓には熱い血潮が流れているのだと神様は力説していた。だから赤色はハート。イチゴやリンゴやトマトにもハートマークで挑む神様。でも、緑黄色野菜でまとめるからカボチャと一緒のハートはニンジンなのだ。  オレは神様の手作りなら何味だって食べるけどね。                神様のお菓子にうきうきわくわくしていたオレは、浮気疑惑がかかったことを部屋に着くまで忘れていた。風紀委員長のことは記憶のかなた。  お茶を入れてマフィンを食べることを想像して浮かれている。  わんわんは好きなことにまっしぐら。  いつもリビングにオレを繋いで生徒会室に戻る会長だったが、今日は部屋の中で立ち尽くしていた。これ幸いとオレは会長を放置してマフィンをオーブントースターに入れる。手錠をかけられない内にやるのだ。  温かい方が美味しいと神様が言っていたのでオレはマフィンをいつも温める。コーヒーを淹れながらちょっと一服する時間があるなら飲んでいくのだろうかと会長を見る。少しぐらいならマフィンを分けてやってもいい。喜べ、特別だ。   「圭人圭人、俺の知らない圭人がいるなんてイヤだ」    縋りつくような声で言われてもオレは守秘義務のある仕事をしてるから全てを知るなんて無理ですけど。オレを構成するほとんどが企業秘密ですから。   「庭田といつ知り合った? どうしてあんなに西名に絡んだんだ? 転入生の言ってた――」    オレの腰に抱きついてブツブツつぶやいている会長。病的だ。病んでいる人にマフィンはあげない。美味しく食べれないだろうからね。    コーヒーにミルクたっぷり入れて落ち着かせよう。  カフェインは興奮しすぎる。でも会長はコーヒー党のカフェイン中毒者だからまったくカフェインがなくても落ち着かなくなる。  そんな人だから適度に摂取も大切です。  ガムシロップも入れてアイスコーヒーにしようそうしよう。わんわんは気遣いが出来るのですよ。オレはお腹が冷えるからホットコーヒーだけどね。   「転入生が言ったように親戚じゃない人に育てられたのは本当だ」 「その人のこと、圭人は」 「好きに決まってるだろ。大切だよ。世話になってる」    正確に言えば世話をしてもらってるのはお互い様だ。  いやでも、オレの仕事だった部屋掃除は新しく来たやつにとられてしまった。それに屋敷もあの有り様だし、オレは使い物にならない疑惑が出てしまったじゃないか。それもあってイライラするのか。  みゃーみゃーさんの言う通り風紀委員長には少しここ最近の苛立ちをぶつけてつらく当たりすぎていたかもしれない。反省。   「ごめん、ごめん」    会長は泣いているのかオレの腹のあたりが湿ってくる。   「言いたくないこと言わせてるよな」 「別に……聞きたいなら聞いてもいい」    オーブントースターが鳴った。  マフィンが温まったらしい。  食べよう食べよう、そうしよう。  会長にコーヒーのカップを持たせてリビングに行くようにうながす。さっきまでオレにへばりついて意地でも離れないとばかりな空気だった会長が涙をふいてカップを持って行く。  すんなりと言うことを聞くあたり憎めない奴だと思う。  オレはマフィンを皿に盛ってリビングに向かう。すぐそこだけど。   「庭田とはいつから? どこで? この一年は連絡とってないよな?」    リビングのソファに座った瞬間にガシャンっと手錠をはめられた。まあ、別にいいけど。逃げたりしたら温めたマフィンが冷めるし。  手錠は片手だけで鎖の長さはテレビのリモコンに届く程度。  一メートルあるかないか。トイレは遠い。   「夕飯は?」 「パエリア」    もしかして生徒会室に行かない気か? サボりはよくないだろう、生徒会長。    

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