順調に進化素材を集めていたオレは顔を上げて驚いた。ソファ、つまりオレの横にぴちぴちの黒いライダースーツを着た、黒くシャープなデザインのフルフェイスヘルメット着用の男が立っていた。 　都市伝説の首なしライダーを一瞬連想したが、首はちゃんと繋がってる。 　驚きからスマホを落としたオレは何も悪くない。 　 　足が当たったのかフローリングをすべっていくスマホ。拾おうにも手錠の鎖の範囲より遠い。カシャンカシャン音を鳴らせるオレに会長が「はい」と取って渡してくれた。それよりも、目の前の人間だ。 　 「か、飼い主？」 　 　思わず会長の前なのに取り繕わずに呼んだ。いやだって、いると思わないでしょ。さっき電話した時にちょっと浮かれてるような気がしたけど、もしかしてサプライズする気でテンション上げてたのか。去年に学園にちょっかいかけなかったのが、不思議なぐらいだった飼い主。でも、このタイミングってなんで。 　ゴールデンウィークに会えなくて淋しかったとかそういうの！？ 　 「気づくのおせぇ」 　 　ゾクッとするような魅惑の低音。ヘルメット越しなのでくぐもっているものの格好よさは変わらない。 　愛想の良い明るい声よりも不機嫌そうな低くかすれる声の方がなんというか艶があってエロくて格好いい。聞いているとそわそわ落ち着かなくなるイケメンボイス。顔だってもちろん格好いいけれどハリウッドスターの吹き替え声優できるんじゃないのかってぐらいの声は柄が悪くて口汚くても耳を幸せにしてくれる。 　組織の中で飼い主の声を電話やメールの着信音にしよう計画が行われたことがある。立案はオレだ。実行もオレだ。当然バレた。 　罰としてオレの声を飼い主の着信系ボイスに使われた。うちの家では目には目をということでやり返すのが基本です。パソコンの起動音もオレだ。声変わり前の音声だからずっと残しておくと言われた。飼い主のパソコンを起動させるたびに恥ずかしい。 　 「どうして？」 　 　居る理由よりも格好が気になる。基本は黒塗りの車で護衛と一緒に行動するけれど一人で動くときは小回りの利くバイク。いやでも、視力が落ちたならバイクは危ないからやめてって言ったのに。 　眼鏡もコンタクトも嫌いな飼い主は疲れ目だったり視力が落ちたらオレを使う。賢いわんわんなので全然余裕に盲導犬をやるわけだけど今はオレが近くにいないから勝手な行動は慎んでくれ。事故ったらどうするんだ。 　だから学校に通うのなんて嫌なんだと不満が湧いてくる。 　 「会うつもりはなかったんだがな」 　 　腕を組んで仁王立ち。ピッタリとした服のせいでよくわかる飼い主の肉体美。衰えを知らない服の下の筋肉の盛り上がり。シルエットはあくまで細身だけれど棒のようなひ弱さはない。 　スウェーデンあたりの血が入っているらしい飼い主は、瞳が綺麗な青で肌も白くて日本人離れした顔をしている。 　今はフルフェイスヘルメットで見えないけれどマフィアのボスっぽい。 　やってることはそれっぽいし日本のヤクザや海外マフィアともいろいろと取り引きをしているので、目に力があるし大人の魅力にあふれている。これは会長も負けを認めてオレから離れるだろう。 　愛に種類があるのならこういう愛もあっていい。