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39 そんなの絶対おかしいよ。

 会長の変態趣味を改めさせるよりはイチゴババロアをまた作ってもらおうっていう緩い考えがいけなかったのか、こんな訳の分からないことに巻き込まれている。   「……なぁ、吉永紬って誰?」  その答えが図書委員長イコール鬼畜眼鏡だったことまではいい。話題のソイツがオレに向かって手を振ってきたりする異常事態はいけないだろ。関わってくるなよ。他人だよ。   「ほら来いよ。早く行かないとチャッピーが拗ねるぞ」    オレに手を差し伸べてくる鬼畜眼鏡。お前分かってるのか。目の前に会長がいるんだぞ。気安く接触してくるな。それにチャッピーは四十代後半のオッサンだぞ。小さなことで拗ねてたまるか。飼い主は自分が時間にルーズなクセに人の遅刻に厳しいけどチャッピーはそんなことないからな。ってか、オレ以外がチャッピーをチャッピーと呼ぶと鉄拳が飛んでくるからな。組長代理補佐とか偉いんだかえらくないんだかイマイチ分からない肩書きだけどチャッピーは武闘派ヤクザだからドタマかち割られるからね。    ただ生活が不規則で食事を忘れるし風呂も忘れるし寝るのも忘れるからちょっと世話を怠ると変なところで怪我したりするからちゃんと面倒を見ないといけない。すでに介護の域だ。   「圭人?」    オレに対して笑顔を安売りする会長が無表情になってるじゃないか。怖い。何でオレがわざわざ大人しくしてたと思ってるんだ。会長は並大抵じゃない面倒くささがあるから穏便な流れで別れないといけないのに鬼畜眼鏡は眼鏡なのにバカ。それともオレに対してこれも試練だとか思ってるのか。迷惑極まりない。   「紬様」 「ここは俺に免じて騒ぎは控えてくれ。これから外出だ」 「コイツ……吉永圭人と二人でですか?」 「実家に帰るなら兄弟二人で、だろう」 「それでは、昨日のことは本当なんですか!?」 「その件はまた今度。帰ってきたら話そうね」    穏やかに優し気に甘く囁く姿は出来の悪い飼い主あるいは気障なホストみたいだったけれど生徒たちに効果は抜群らしくキャッキャッと楽しんでいる。一人が気を取り直したように咳払いをするとみんながピタッと動きを止めて咳払いをする。咳払いをすると今までの行動がリセットされるというルールがあるのかもしれない。   「お出かけのところをお引止めして申し訳ありません」 「いいよ。昨日は色々とあったから気になって眠れない子もいただろう」    微笑みかけている鬼畜眼鏡はオレからすると薄ら寒いが生徒から大人気だ。自分の顔は極上品だとナルシーなことを以前言っていたから騒がれるのが嬉しいんだろう。演技が過剰だ。色気は安売りをしてはいけないって飼い主から聞いていないんだ。かわいそうな奴だ。これはその内、刺されるタイプ。   「会長もご存知だと思いますけれど圭人とは兄弟なんです」 「圭人は知らないと言っている」    言ってないけど今の今までそういう設定にしていたのは知らなかったよ。オレの戸籍がどうなっているのか気にはなっていたけれどまさか鬼畜眼鏡の家の子供にされているとは予想外だ。組織の人間の誰かと親子扱いにされているとは思っていたけれど考えもしない相手のところと縁が結ばれている。    そういえば元祖みゃーみゃーさんが鬼畜眼鏡と初めて顔を合わせた時に「ボスに合わせたせいだけれど二人は不思議と関連があるね。紬糸とも言うし仲良くやるんだよ」なんて言われた。圭人もとい毛糸に合わせるなら編み棒とかだろ。元祖はどうにもズレててダメだ。コイツの鬼畜の所業を組織の人間は誰も注意しないんだ。そんなの絶対おかしいよ。

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