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41 同じ眼鏡なら親衛隊長がいい。
正門に止められた車はベンツ。つまり中にいるのは猫にゃんさんだ。ヤクザは分かりやすい車がお好き。高級志向でイェイ成金。
会長が捨てられた犬のように「圭人圭人」いうので「明日な」と頭を撫でてやる。猫にゃんさんに見られてもこのぐらい、許容範囲。
「生徒会長……キャラが違いすぎるだろ」
車に入って鬼畜眼鏡から一言。オレに同意を求めるな。
オレからすると全校集会で真面目な顔してる会長の方が例外だ。オレの前では、いつも会長は半泣きだ。オレが無視しても泣くし構っても感動して泣く。
ただの感受性豊かな人間かと思ったら、オレの気持ちはガン無視で軟禁。去年はわりと人の言葉が通じなくて苦労した。今は以前に比べれば、きちんと意思疎通が取れている。とはいえ、明日は去年と同じような状態になっている気もする。
「会長はなぁ、安物のシールみたいな感じだから剥がす時は丁寧にしないといけないんだよ」
爪でちょちょっとやって綺麗に剥がれるようなシールじゃない。一歩間違うと剥がす前より汚くなるシール。粘着面が残ってベタベタして指でこすると黒く汚れる。そういうタイプの人間だ。飼い主とまったくにして逆。
「お前、生徒会長のどこが好きなんだ」
好きなんて言った覚えないんだけど。というか鬼畜眼鏡とそんなに会話した覚えもないんだけど。なんで、こんなに馴れ馴れしいのか謎すぎる。
「聞いてるだろ、答えろ」
オレの顎を指でくいっと持ち上げる。イケメンだけに許された仕草だ。オレは鳥肌を立てた。こんなこと飼い主にもされたことないのに!! 会長にもされたことないけど!
飼い主も会長も身長的な問題なのか、腰を引き寄せてくることが多い。どちらにしても眼鏡なのにインテリ臭が足りない鬼畜だ。
「猫にゃん、車の中で発砲はダメにゃん」
元々、車の中にいた猫にゃん、その横にオレ、鬼畜眼鏡と乗っている。借りてきた猫のごとく静かだからって放置すると牙をむくぜとばかりに猫にゃんは懐に手を入れている。
ムカついたら殺しとけばいいよねとか思ってる頭からっぽヤクザな行動をするくせに、それなりに知能犯だから猫にゃんは敵に回すべきじゃない。
「小宮さん、お久しぶりですね」
余裕ぶってる鬼畜眼鏡。ちょっと震えてるのがオレには分かる。猫にゃんはお前ぐらい余裕で殺しちゃう側の人だからね。ビビるよね。
「小宮にあ、だ。にゃーさんと呼びな」
「猫にゃん!!」
「わんわんはどんな呼び方でも許す」
「猫にゃん!?」
「わんわんは何をしても許す」
「にゃうにゃう」
鬼畜眼鏡放置で二人の世界を作る猫にゃんとオレ。
「ちゃんと依頼通り結婚詐欺師に詐欺し返して金を取り戻しました。わー、パチパチ」
「パチパチ」
「猫の手」
「にゃーにゃー」
両手で猫の手のポーズをとると写真を撮られた。どうせ待ち受け画面にするんだろう。猫にゃんはオレを好きすぎる。オレはわんわんだけれど、これは猫にゃんへのご褒美なのでにゃーにゃーである。
「あの人がお前が周りを軽くただ働きさせてて怖いとか言ってたけど、こういうことか……」
「ただじゃない、にゃあ?」
「わんわんは普通はにゃーとは鳴かねえんだよ。そんなこともわかんねえのかっ!?」
鬼畜眼鏡が眼鏡を外して眉間のあたりを揉みだした。まあ、今回の詐欺とか三年がかりの計画だから、気持ちはわかる。報酬がオレがニャーって言うだけでとか、安上がりもいいとこだけど猫にゃんがご機嫌だからそれでいいのだ。
「いま強盗犯を拷問して、盗んだものをどこにやったのか吐かせてる」
「吉永圭人に会ったら話すと口にしたっきり黙っているんでしょう。聞いてますよ」
どこから情報を仕入れているのか謎な鬼畜眼鏡。対猫にゃんへの口調はちょっとインテリっぽかった。眼鏡くいっとするのが似合う。やっぱり眼鏡はこうじゃないといけない。柄の悪い口調の眼鏡は許しません。まあ鬼畜眼鏡はインテリヤクザみたいなことが似合う人間だから人の髪の毛鷲づかみとかしても気にならないオーラはある。陰険男だ。
どうして鬼畜眼鏡が猫にゃんの車に同乗するのか不明。久しぶりアピールしてたけどスルーされてたし。猫にゃん今年で二十四ぐらいなのに気に入らない人間とはとりあわない。反社会性を前面に出すその姿はクール?
問題は猫にゃんじゃなくて鬼畜眼鏡か。
ダメ人間の見本市のような組織に入るクセに神様ノータッチという奇特な人間。お前は何のために日陰に行くんだよ。そもそもコイツの存在はオレの友達を作ってあげようみたいな大人の余計な気遣いが感じられる。
コイツを友達にするとか無理だろ。
どれだけオレの心は広いんだ。
会長は締め付けがキツいけど、室内犬ならこんなものかと思えば気にならないレベル。ちゃんと毎食美味しいし。そういう面で考えるなら会長だけじゃなくて、ご飯を用意しているのは親衛隊長のメガネかもしれない。
同じ眼鏡なら親衛隊長がいい。
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