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第4話 永遠の愛は誓えないけど
今日のところはカイを連れて帰った。カイに叔父が言った事を伝えようか悩んでいる。カイはどう思うのだろうか? 悲しませてしまうのではないか?
『主、食欲が無いようですね。体調の変化は見受けられませんが何かありましたか?』
「カイはさ、どうしたい?」
『……すみません。ちょっと分かりません』
「僕は、ずっとカイと一緒にいたいよ。もっと長く、ずっと、おじいちゃんになってもカイと一緒にいたい」
『……私も主の側にいたいです。大好きですよ』
ニコ、とカイは微笑む。闘病している家族の余命を本人より先に医師から聞かされたとき、きっとこんな気分なんだろうなと思った。
カイが動ける限り側にいてほしい。もっと言うならば、例え動けなくなったとしても側にいたい。だけどカイはそんなギリギリまで使われたくないだろうか? どうすれば最善なのか僕には分からない。
『申し訳ありません。充電不足です』
「はいよ」
カイがうちに来た頃は週に一度充電すればよかった。けれど最近になってからは五日に一度、三日に一度と減っていき、遂には毎日充電するようになった。この間叔父に相談した時にバッテリーは交換したが、それでも多少持ち直しただけだ。
『主……』
「どうしたの?」
『申し訳ありません。私は貴方との約束を守れません』
そう告げたカイの声は気のせいか、いつもより機械らしく無機質な声だった。
『私はもうすぐ役に立たなくなると思われます。きっとこれが故障というのでしょう。もう与えられた仕事をこなすのも、こうして会話をする事も以前のように出来なくなっています』
「自分でも分かるの……?」
『…………はい。昨年と比べ、会話の反応速度が四・二八秒、情報処理速度が九・六五秒遅くなっています。その他、室内の汚れの見落とし率が三十三・七パーセント上がっていました』
淡々とカイはそう答えた。感覚とかじゃなくて、データとして出てしまえば分かってしまうのだろう。
「カイ……は、どうしたい?」
『…………主の意向のままに。ですが、できる事ならば最期まで貴方のお役に立ちたいです』
「僕も、最期までいてほしい。でもそれじゃきっとカイに負担がかかるよ。カイが辛くなる」
『…………私にとって主に必要とされなくなる事以上に辛い事はございません』
カイはきっぱりとそう答えた。僕も同じだ。カイがいなくなる事以上に辛い事はない。元々ひとり暮らしはできていたんだ。生活面は多分ちょっとずつやっていけばどうにでもなる。カイに側にいてほしい。毎日「おはよう」って言って「行ってきます」って家を出て「ただいま」って帰ってきて「おやすみ」を言って一日が終わってほしい。それだけでいい。少しでも、一日でも長く話がしたい。
それからはカイと今まで以上に多くの話をした。毎日毎日下らない事まで話をして、沢山触れ合って抱き合った。カイの手が回らない家事は自分でやったけれど料理は絶対カイに作ってもらった。兎に角カイとの時間を大事にした。
「ただいま、カイ」
『…………おか……えり…………なさい、蓮様』
四年目を迎える丁度ひと月前、微笑みと共に発せられたその言葉を最後に、カイは反応しなくなった。散々泣いた後、目を腫らしてガラガラの声のまま叔父に電話をした。その翌日にはカイを引き取りに来て、今はもう約四年ぶりのひとり暮らしにもどっている。
「カイ、おはよう」
「行ってきます。ごめんね、今日はちょっと遅くなるかも」
「ただいま。今日はダッシュで帰ってきたよ」
「おやすみ、カイ」
そう言ってもカイの姿は見えないし食事の用意もされていない。自分で作ったご飯は食べられなくはないけれど美味しくない。
「忘れられないよ……好きだよ、カイ」
半月後、叔父から大きな荷物が届いた。人一人が余裕で入りそうな四角い箱と小さな一通の手紙。
〈これもまだ試作段階だがお前にやる。新しい家事代行ロボットだ。前と同じように可愛いがってやってほしい〉
手紙にはそう書かれていた。大きな箱を開けると、カイと瓜二つなアンドロイドが一体眠っていた。
「いくら似ていたってカイは一人だけなのに……」
ご丁寧に手紙の下の方には起動方法が詳しく書かれている。最後の一行に以前と同じように様子を見てほしいと添えられていたから仕方なく起動した。
やり方はカイの時と同じで、五分もかからずにアンドロイドは目を開けた。そしてロボット特有の無機質な声で喋り始める。
『システム起動中。プログラムを開始します』
〜Fin〜
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