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第1話 まいごの子ぐまさん
「うーどうしよう」
それは、とある午後の話。
どこまでも広がる森の中で、ふわふわの子ぐまが困っていました。
子ぐまは肩を小さく上下させ、ひくひくと鼻を鳴しながら、あてもなくとぼとぼと森をさまよっています。
「蝶々さんもいなくなっちゃった」
びゅんと風が吹き、葉を失った木々がざわざわと騒めきました。遠くから聞こえるカラスの鳴き声が恐ろしさを醸し出しています。
色とりどりの花が生え、小鳥が陽気な歌を歌うような森で迷子になっていたら、この子ぐまは今泣いていなかったでしょう。
不運にも迷子になった森が、魂を失ったような、暗く怪しい森だったから不安で仕方なく怖くて涙が自然と頬を伝ったのです。
ひとりぼっちには慣れているはずの子ぐまでしたが、いつも以上に孤独を感じこわごわと森の中を進みました。
「まいご、なのかな、ぼく」
しかし、この子ぐまは、子ぐまのようで本物の子ぐまではありませんでした。
もちろん、木々の枝からこっそりと見つめる小鳥やリスたちは、クマらしからぬ動きをするおかしなクマが現れた、と震えていましたが、この子ぐまは子ぐまではなかったのです。
「んっ、やっぱりこれかぶってると動きづらい!」
勢いよく子ぐまが頭を外しました。すると、ピーピー!やキャー!と影から見守っていた動物たちのいろいろな叫び声が森を駆け巡ります。
子ぐまの頭が外れたのです。
そう、頭が。
頭が外れたと思ったら、人間の頭が出てきました。
「あーあ、汗かいちゃった」
この子ぐまは子ぐまではなく、子ぐまの着ぐるみを着た人間の少年でした。
風が通り抜けると、栗色の髪がさらさらと揺れます。緑色の瞳をきょろきょろと動かすと少年は子ぐまの被り物を持ち上げて言いました。
「ここはどこだーーーー!!!!」
「人間の子よ、声を抑えてくれないか。ただでさえ森の住人たちが怖がっているのだから」
「きゃっ」
「静かにしろと言ったばかりなのに」
迷惑そうに姿を現したのは灰色の髪を持つ青年でした。腰まで伸びる髪は風に吹かれるとさらさらと揺れるけれど光に照らされても輝く様子を見せません。色白の顔もよく見てみれば血の気のないような青さです。
「だ、だれ?」
「私の名前はカーネ。この地の主で、森の命だ。お前はなぜ泣いているんだ?」
「ハロウィンに向かっていたのに、蝶々さんを追いかけていたら迷子になっちゃって」
「蝶、を?」
「そう、すごくきれいな蝶々だったの」
「青色の蝶か?」
「うん……お空の色だった。この森ににあわないくらい明るい色の」
「そうか、カシミロがお前を連れてきたのか……まさか、いや、そのはずはない」
カーネの冷たい視線が少年を睨みつけ、指先がくせ毛の髪を弄ります。
「それより……その子ぐまはどこで手に入れた?」
「え……?」
「お前が着ている子ぐまだ。皮を剥いだのか?」
カーネの指が少年の首筋を掴みました。
ぎりぎりと食い刺さる指先に少年は顔を歪めます。
「いたいよぉ」
「その子ぐまもたいそう痛がったはずだ。生きたまま剥いだのか?目には目を、だ。絶対許さない」
「おねがい、放して!これは本物のクマじゃないよぉ!」
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