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第8話 子ぐまさんのおうち
これは、とある午後の話。
鮮やかな緑色の葉を茂らせる森の中で子ぐまが一匹走り回っていました。
子ぐまは楽しそうに飛び跳ねると、両手を大きくかかげます。
「ガオー!」
子ぐまがさけぶと小鳥たちがちゅんちゅんとさえずり、ウサギたちがキャッキャッと走り回ります。リスたちは嬉しそうに尻尾を振りながら木を登り、葉っぱの陰に身を隠すのです。
「もー!みんながかくれちゃったら鬼ごっこにならないよ!」
動物たちは雑草の隙間から顔をのぞかせると、嬉しそうにきょろきょろとお互いを見つめ合いました。みんなの楽しそうな姿を見たアオも嬉しくてニコニコと微笑みます。
「ほら!鬼ごっこするんでしょ!かくれちゃだめだよ。みんな、出てきてよー!」
太陽がさんさんと降り注ぎ、心地よい風が森を吹き抜けます。
色を失っていた昔の姿はもうこの森にはなかったのです。
「アオ、そろそろ昼食を食べないか?」
「わ!もうそんな時間?」
「ああ、天気がいいから外で食べよう」
子ぐまの被り物を脱いだアオは喜んでカーネのもとに向かいました。
アオが森に住みだして10年ほど経ちましたが、不思議なことに、初めてカーネと体を交じり合わせたあの日からアオは年を取らなくなったのです。
いくら時間が経とうと出会った日と同じように愛らしい表情を見せるアオをカーネは宝のように愛し、片時もそばを離れません。
緑の葉が一枚もついていなかった2人の住処も今となっては緑豊かな大樹となったのです。
「野いちごだ!」
「ああ、好物だろう?」
「うんっ!」
「お前の好きなキノコもとれたんだ」
2人が地面に座ると、1匹、また1匹と動物たちが近寄ってきます。
気づけば森の住人たちはみんな一緒に昼食を楽しんでいました。この森に来るまで1人で生きてきたアオはこれが本物の家族なんだと何度も何度も感動するのです。
「んっ、どうしたの?」
「何でもない、この子たちばかり構わずに、私との時間も取ってほしいと思っただけだ」
「ふふっ、やきもちなの?」
「そうなのかもしれないな」
「ぁんっ」
隙があればカーネはアオに触れ命を注ぎます。唇が触れ合い、唾液が混ざり合うたびに森に花が咲き乱れ木々が嬉しそうに揺れるのです。
二人の周りで野いちごを食べていた動物たちは目を隠し首を振りました。
森に命と魂が戻ってきたのは喜ばしいことですが、森の主たちには限度と言うものがないようです。ところかまわず、交じり合う二人に誰もが「またか」とため息をついたと言います。
「わっ、すごい、花吹雪」
芝生に押し倒され、青い空を見つめたアオは声を漏らしました。
「私を見てくれないか、アオ?」
「またやきもち?」
「午後も、この子たちと遊ぶ予定か?」
「今日はいつもの絵本を読む予定」
「それが終わったら、私だけと過ごしてくれないか?」
「ふふっ、それまで待てるの?」
「大人しく待たないと、この子たちに怒られてしまう」
優しい口づけの雨が降り注ぎ、アオは瞼を閉じました。
『迷子の迷子の子ぐまさん、あなたのおうちはどこですか?』
これは、森のみんなが大好きな物語。
おばあちゃんウサギはアオと出会った日を思い出し、赤ちゃんリスは優しい声に耳を傾けながら日向で眠ります。
『そして、子ぐまはあたたかいおうちを見つけ、いつまでも幸せに暮らすのでした
めでたしめでたし』
完
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