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8/19(月) 2

「ところで宗平。今日はどこに…」 気になっていたことを尋ねると宗平は飲み終わったシェイクのゴミを捨てニッと笑った。 宗平に連れられやって来たのはボールがピンを弾く小気味いい音が絶え間なく響くボウリング場。 「バッティングセンターとも思ったんだけど春人バッティグへったクソそうだからさー。」 と受付に並ぶ宗平に軽くディスられる。 「答えも出ねえのにずーっと1人で考えてたことがあって…なんか体動かしてすっきりしたかったんだよな。付き合ってよ。」 歯を見せて笑いながらそう言った宗平に少し驚く。宗平がそんなに1つのことで悩むなど、なんだか意外だ。内容を語らない点からするに詳細を言いたくはないのだろう。 だが侮ることなかれ。 俺は、ボウリングだって下手くそだ。接戦がお望みだとしたら全く相手になどなれないぞ! そう自信を持って言い張った俺に宗平は今までの平均スコアを尋ねた。 だいたい85前後だと答えると「下手寄り普通じゃね?」と言われる。 ちなみに宗平は160は必ず行くらしい。そのスコアから結構な頻度で通ってるのかとも思ったが部活もあるしそこまででもないらしい。なんだそれ。禿げろ。 靴とボールを選びゲームを開始する。 「いやいや、春人ボール投げる位置後ろすぎんだろ。床傷つくわ。」 「そうそう。狙うのはあの辺で…」 と、宗平にちょこちょこアドバイスを貰いながら投げていく。 すると…まぁ不思議。なんと1ゲーム目から95点を超えられた。 「これ、今日100超えられたら宗平に何か奢るわ…。」 「マジ?最初から言ってくれてたらもっと真剣に教えたんだけど。」 その言葉に「真剣に教えてくれてなかったのかよ!」とツッコむと宗平はイタズラっぽく笑った。 あー、楽しい…。 普通の生活を、今、俺はしている。 「俺、宗平と居んのすげー好き。」 思わず零した俺に宗平は微妙な顔をして「なんだそれ。」と返した。 真意など、伝わらないでくれ。 結局3ゲームを終えてみて最終的なスコアは2ゲーム目のみ100を超えるという結果で終わった。 なぜ3ゲーム目の方が2ゲーム目よりスコアが低いのか尋ねると疲れではないかと返される。確かに右腕がなんだか普段と違う感覚がする。 宗平は本当に全ゲームで160以上取り、アベレージは170を超えていた。ボウリングの妖精でも付いてるんですか? 「ところでさ。」とスコア表を見ていた俺に宗平が切り出す。 「何奢ってくれんの?」 あ…とゲーム中に言っていた冗談のような口約束を思い出す。 「悪い。さすがに夕飯奢るほどの金の余裕は今日はないからまた後日で良いか?」 まさか本当に100を超えられるなんて思ってなかったし。さすがに2人分の夕飯代を払えるほどの余裕はもう今日の俺にはない。 宗平は軽く「おっけー。」と言って笑った後暫くしてから俺に尋ねるように提案をしてきた。 「それさ、奢るんじゃなくて『お願い聞いてくれる』とかでも良いか?」 「?まぁ、俺に出来ることなら。何?何かしてほしいことあんの?」 「いやー。今すぐってのは無えんだけど。んー…テスト前にノート見せてくれるとかさ。」 最後に適当感溢れる『お願い』を付け足す宗平。 そんなん無償で見せてやるのに。 そう返せば何故か笑った宗平に、俺も釣られて笑ってしまう。 あんなにあったはずの夏休みも気付けば来週で終わり。 夏休みが惜しいというよりも宗平といる今日が終わっていくのが嫌で、赤く染っていく空を寂しい気持ちで眺めながら「このまま永遠に今日が終わらなければいい」と願ってしまった。 叶わないことは、当然分かっていたけれど。

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