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ワンライ参加作 お題「回り道」穂希☆唯人
ワンライで書いたお話しです。
お題「回り道」
*
折原唯人 (おりはら ゆいと)
20才。A型。168センチ。
黒髪。
年齢より幼い感じ。
ちょっとツンくん。
鳴沢穂希(なるさわ ほまれ)
25才。AB型。178センチ。
茶色髪。眼鏡。
年齢より落ち着いた感じ。
ちょっと天然くん。
*
久しぶりに出来た恋人は五つ年上で俺より背が高かくて眼鏡の奥の瞳が柔らかく微笑んでいるような人だった。
「ユイくん?」
数歩遅れて歩く俺を振り返って名前を呼ぶ。「早く」と急かされたようで心がささくれる。
なんだよ、そんなに早く帰りたいのかよ。俺はもっと一緒にいたいのに。空はまだ明るくだけどそこに浮かぶピンク色の雲が夜がそこまで来ていることを教えてくれていた。
「ユイくん、寒くないですか?」
「別にぃ」
我ながら憎たらしい言い方だったと思うのに恋人は
「ユイくんは寒がりだから風邪をひかないかと僕は心配です」
と、つけていた白に近いくらい薄いブルーのマフラーを外して俺の首に巻いてくれた。
ふんわりとしたカシミヤのマフラーはまだ恋人の体温と香りが残っていた。
「これで少しは暖かくなりましか?」
「でも、あんたが寒くなるんじゃない?」
返そうとマフラーに手をやると恋人は
「僕は大丈夫ですから」
とにっこり笑って俺の手に手を重ねてそれを止めた。その顔を見て、あぁぁもう、好きだなぁと思う。悔しいけれど俺の方がたくさん好きだぁと。
「そのマフラー、ユイくんによく似合ってますよ」
そんなことまで言って喜ばせた癖に恋人はチラリと腕時計に目をやった。
「ユイくん、今日は少し回り道をして帰りませんか?」
「なんで?」
聞くと恋人は少し困ったような顔をしてまた腕時計に視線を落とす。
「駄目ですか?」
「そんなことないけど…急いでるんじゃないのかよ?今日は時計ばっか見てるじゃん」
「気付かれてしまいましたか?すみません。もしかして、それでユイくんは不機嫌なんですか?」
「そ、そんな訳ないだろ。知るか」
「そうですか。もしそうだったら嬉しかったのですが……残念です。あっ、もう時間がありません。ユイくん、急ぎましょう」
そう言って恋人は俺の手を握って走り出す。
「ちょっ、待って待って」
いつもは曲がる角を通り過ぎて大通りに続く道を真っ直ぐに駆けていく。はぁはぁと息が上がる。やっと立ち止まってもまだ呼吸を整えている俺の横で恋人は言った。
「良かった。間に合いました。ユイくん、見て下さい」
その声に視線を上げると
道路の向かいに建つ高層マンションのガラスの外壁に沈んでいくオレンジ色の太陽が映ってまるで夕焼けに包み込まれているみたいな幻想的な世界が目の前に拡がっていた。
「すげぇぇ、綺麗だ」
それは沈む太陽の角度で失われていく僅か数分の美しさ。建設中のマンションの外壁をずっと覆っていたシートが外された後に偶然ここを通りかかった恋人はこの景色を見たのだという。
「ユイくんにも見せたかった」
そう言う恋人の眼鏡のレンズもオレンジ色に染まっていてそのレンズ越しに見つめられた俺の頬は熱くなる。
「あれ?ユイくんほっぺが赤いですよ?すみません。もしかして風邪を引かせてしまいましたか?」
「鈍感かよ」呟くと恋人は
「何か言いましたか?」
「いや、何にも言ってないよ。ただ…」
ーーこういう回り道ならたまには良い
かもなって。
久しぶりに出来た恋人は五つ年上で俺をユイくんと呼んで自分の見た綺麗な景色を俺にも見せたいと思ってくれるような人だった。
この恋に出会うまでに何度か恋をした。回り道したのかもしれないけれどだからこそこの恋に会えたと思えばそれも悪くない。かもな。
「ユイくん、寒くないですか?」
言葉と同時に遠慮がちに繋がれた手の優しさをこれから先、二人で歩いていく道に何があっても俺は忘れないだろう。
ちくしょう、泣きそうだ。
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