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ワンライ参加作 お題「ゴミ箱」
ワンライで書いたお話しです。
お題「ゴミ箱
美形絶倫ほんわり攻めと口下手な男前受けの話し。
*
どうしてそんなに何でも分かってしまうのか。
「お前が好きだからだよ」
恋人は怒ったように答えた。
*
マンションの下から自分の部屋の窓を見上げたのは何の意味もない行為だった筈なのにそこがほんわりと柔らかな灯に包まれている様な気がして疲れた脚が急に軽くなった。
「おかえり」
とびっきりの笑顔で迎えられて
「ただいま」
何故か素っ気なくなってしまうのは許して欲しい。
だって俺の恋人はそれこそとびっきりの美人なのだ。
「お疲れ様。お風呂にする?ご飯にする?それとも……オレに……」
「ご飯っ、断じて絶対ご飯!俺はご飯が食べたい」
「オレ……傷付いた」
しゅんと下を向いた姿に絆されたら大変な目に合うことは過去の経験が物語っている。何しろ恋人はこんな優しげな風貌のくせして実は策士でその上、絶倫なのだ。それなのに演技だと分かっていてもやっぱり気になって俯いた顔を下から覗いてしまう。
すると現金な恋人はパッと花が咲いたように表情を変えて
「嘘」
とぺろりと舌を出す。
そしてくるっと背中を見せてキッチンへ向かう。
何となくその見慣れたはずの背中がいつもと違う気がしたのは多分気のせいだとその時は思った。
「今日はねぇ、オレ、頑張ったよ?君が好きなものいっぱい作ったんだ」
ほら、見て?と開いた両の手のひらでサッとテーブルの上の料理を指し示す。けれど俺は料理よりいくつも絆創膏の貼られた恋人の指に目を奪われてしまった。
「お前、それ」
恋人は俺より忙しい毎日を過ごしている。
今日だって本当は俺の食事当番のはずなのだ。
「お前……なんかあった?」
大丈夫なのか?の代わりに俺はそう尋ねた。
「えっ?」
「なんか仕事で嫌なことでもあったか?」
「そんなのないよ」
「ふーん……
ふとキッチンに置いてあるゴミ箱に目が止まる。
さして得意でもない料理をしながら何を考えて何を吹っ切って何を捨て去ったのか。
綺麗に盛り付けられた美味しそうな料理。
それらを作りながら恋人が指の傷と引き換えにひとり心を癒したのだと思うと胸が痛かった。
ーーチクショウ
俺なんてあのゴミ箱と同じでいいんだ。
恋人が綺麗に笑っていてくれるのなら
愚痴だって泣き言だってどんな悩みだって受け止めるのに
「ほんとお前ってええかっこしぃだな。料理がストレス解消になるのなら別に良いけど少しくらい弱いとこ見せたら?可愛くないよ」
ゴミ箱代わりにさえなれない自分の不甲斐なさが腹立たしくて俺の声は尖るのに恋人は嬉しそうに
「どうして君はなんでも分かってしまうのかなぁ」
と言った。そしてやっと
「ホントはちょっと落ち込んでた」
と白状した。
「ほらみろ、やっぱりそうだ。あのな、そんな時は料理なんか作るんじゃなくて俺に言えよ!何でも聞くから。俺は……俺はお前のゴミ箱になりたい、いや、なる。俺はお前のゴミ箱だっ!」
「ゴミ箱って……君っていつもそうやってオレの意表を突くから好きだよ」
クスクスと笑いながら恋人はさらりと俺が言いたくても言えない言葉を言ってのけた。
「そ、そうかよ……」
「うん、そうだよ
ーーこっち来て
掠れた声が俺を直接愛撫する。
この声に逆らえた試しなんて……ない。
「あのね、君のこと考えてた。君の好きなもの作りながら君が美味しそうに食べてくれると良いなぁ、ってずっと……
ーーずっと君のこと考えてた
「だからオレのストレス解消は料理なんかじゃなくて君だよ」
絆創膏が貼られていても尚美しい指が俺の頰を愛しげに滑っていく。触れられた唇は熱くて無条件に受け入れたその指を粘膜は冷たく感じた。
「美味しい?」
カフェオレ色の目が色っぽく俺を誘惑する。
その甘さに溺れて目を閉じる前に俺はもう一度最後の抵抗を試みる。
「ダメ、どこ見てるの?君はオレのゴミ箱になってくれるんでしょ?だったら余所見しないでオレだけを見てて。オレのダメなとこも弱いとこも全部、全部キミだけには見せるから……だから一生
ーーだから一生そばにいて
キミからプロポーズしてくれたんだからイヤだなんて言わせないよ?」
「プロポーズ……?」
「ゴミ箱になってやるだなんてキミらしいね」
「あっ……」
そうじゃなくてと言いかけた俺を恋人は優しくけれど同時に強く腕に閉じ込めた。そしてほんのり黒く笑いながら
「ずっと大事にするからずっと一緒にいてね」
と甘く命令した。
綺麗好きな恋人にぴかぴかに磨き上げられたシンクの側に置かれたゴミ箱に「お前のせいだぞ?」と悪態を吐きながらそれでもやっぱり幸せだと思う。
しかしそれにしても
「腹減った」
そして俺は恋人に美味しく頂かれてしまうのだった。
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