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ワンライ参加作 お題「鏡」
ワンライで書いたお話しです。
お題「鏡」
*
鏡の中の男はじっとこちらを見ている。涼やかな目にスっと通った鼻筋、薄い唇。
「お前の顔が好きだよ」
恋人が褒めてくれたその顔にはけれど酷い傷跡があった。
ガチャンッ
拳を打ち付けると鏡はひび割れ赤い血がつぅーとひと筋、流れた。
消えてしまえと願った顔は万華鏡の様に映し出されこちらを見ていた。
「ああああああー!!」
それならばいっそ……
「やめろっ!」
自らを傷付ける為に振り下ろそうとした手を後ろから掴まれる。
「やめてくれ。何で、お前は……
「だって、もうオレはいない」
いつもいつも恋人が好きだと言ってくれた顔。暖かい手で包み撫で頬擦りして口付けてくれた顔。
「お前はここにいる」
「こんなのオレじゃない」
「それなら痛みを受けなければいけないのは俺だ。お前は俺を庇って……」
切なげに歪んだ男の表情が鏡に映る。
「違うっ、オレが勝手に」
ひび割れた鏡の中にふたりの男がいた。
『この傷で貴方の心を永遠に縛りつけたい』
そう願ったの果たしてどちらの男だったのか。
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