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プロローグ-1

 空から覗く太陽の光は木々に遮られ、様々な緑色が風に揺られ音を漏らす。  春先も近いからか生暖かい風は、僕と、そして隣にいる水帝にも当たり、目の前に屍累々と連なった魔物らの汚臭をも運んできた。  最期の呻きをあげる彼らを見て、水帝が口を開く。 「さすがです、零帝様。S級も何匹かいたはずなのに、一瞬で倒してしまわれて……」 「いえ。結局は貴方の助けも借りてしまいましたし……私も、まだまだです」 「俺は貴方様の多少の援助をしたに過ぎません。俺がいなくても、このような壮絶な光景は出来上がっていたでしょう」 「それでも、助けていただいたことには変わりありません。貴方がいなかったら、こんなに早く片付けられませんでした。ありがとうございます」 「こちらこそ、貴方様の手助けができて嬉しかったです」  ふわりと彼が微笑む。それに対し僕もフードの下で微笑み、目の前の魔物に手をかざした。  火の初級魔法だが魔力によって広範囲に作用できるそれは、しかし魔力を注ぎ続けなければならない。木々を燃やさぬよう調節し、その状態を維持する。  僕の調節が終わったことを悟ったのか、彼の手が僕のフードに触れてきた。 「木の葉がついていました」 「……ありがとうございます」  子供じみたことをしてしまったことに心の中で恥じ、表面だけは冷静に取り繕う。  彼に笑われてやしないかと横目で盗み見ると、そこには炎に照らされ、幻想的な彼の姿が……。  つい、彼を見たまま固まってしまい、前を向いていたはずの彼の視線が僕を向き、甘い声が囁かれた。 「ん? 何です?」  それだけで僕の心臓は高鳴り、顔に血が集まる。 「いいえ、何でも」  そんな些細な会話に生じる幸せを噛み締めるように拳を握り、前を向いた。  この時間は、僕にとってかけがえの無い、何にも代え難い、大切な時間だった。  大好きな彼と時を共有し、言葉を交わす。  それだけで、こんなにも満たされる。  溢れてしまいそうになるこの想いを必死に抑えながら集中する僕を、彼はじっと斜め後ろから見つめている。  そして燃やしきりさあ帰ろうという時に、彼の腕が後ろから僕に伸びた。 「……え?」 「少しだけ、このままでいいですか」  胸の鼓動が早まる。  彼に触れているところが熱を持ち、頭が真っ白になった。 「す、水帝? ……っ! ……」  首筋に、布越しではあるが水帝の唇が押し付けられる。  混乱の中彼を盗み見ると彼も僕を見ていて、彼の顔が徐々に近づいてきた。 「嫌なら、拒絶してください」  そう前置きをした後に、触れ合う唇。  それは一瞬だったものの、僕にとっては思考を停止させるものには十分で。 「好きです、零帝様」  顔どころか耳にまで広がる熱は、フードを被っているおかげで彼からは見えない。  そのことに安堵しつつも、返す言葉を模索する。  けれど中々見つからず、さっきから「あ…」や、「う…」など、言葉にならない声が漏れるばかり。  そんな僕を愛おしそうに彼は見ていて、安心させるかのように僕を抱き寄せた。

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