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プロローグー2

「落ち着いてください、零帝様。俺は今、返事を求めているわけではありませんから」 「……は、はい」  この距離の近さは、もっと思考力を失わせる。  けれど大人しく彼の鼓動を聞いていた。  僕と同じように早い鼓動は、彼もドキドキしてくれているのだと感じさせる。  それが、無性に……嬉しくて。  僕の答えなんて最初から決まっていたのに、動揺してしまった自分がひどく、恥ずかしくて。 「……水帝」  呼びかけこちらを向いた彼の唇に、自分からそれを押し付けた。  手が震える、唇も震えている。  だけど、彼の想いに答えたくて。  離れて見えた驚いた顔に微笑みながら、「分かりましたか?」と問いかけた。 「……零帝様!」  さっきまでの優しい感じではなく、感情をぶつけるように、彼が僕を強く抱き寄せた。 「好きです。ずっとずっと、大好きでした」 「はい。私も貴方の事が、大好きです」  そうして、どちらからともなくキスを交わす。  それは、ようやく二人が、付き合う覚悟を決めた瞬間だった。  零帝、それに水帝。  この世の実力者である彼らは、彼ら同士で付き合うのですら覚悟が必要であった。  男同士は、子が成せない。  最たる理由はそれであり、トップの実力、特に現・世界最強である零帝の血を、後世に残すのは義務であり、帝という職に就いている者にとっては、絶対に成さねばならぬことの一つである。  だからこんなにも、時間がかかった。  何年も想い合っていたのに、結ばれなかった。  ほんの少しの後押しが、彼らには必要であった。  それは今日の、水帝の行動であるように。  溢れた想いが、どうしようもないほどに愛しい想いが、耐え切れない程に流れて、もう、我慢ができず出してしまった、些細な後押しでよかった。  水帝の行動が、彼らの今後を左右した。  そしてそれは、その日でしか、駄目だった。  その日が、最後のチャンスだった。 「……っつ! ……」  迫り来る影。  一人になった零帝に、襲いかかったのは。 「あなた、は……」  その瞬間、零帝は倒れた。  幸せからの、暗転。  彼の人生は、そこで転機を迎える。  先にあるのは闇、明るかったはずの未来は黒く染まり、彼に襲いかかる。  倒れた彼を背負うのは、何者か。そんなのは誰も知る由などない。  けれど、これだけは確かだった。  その日……世界最強である彼、零帝が――姿を、消したのだ。

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