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手ぐすね引いて待つ(4)

 水瀬は一番仲の良い後輩だ。何度も家に遊びに来ているし泊まることもある。  ゆえに勝手知ったる他人の部屋というわけだ。  焼酎を飲んで酔っぱらった水瀬を寝室へと運び、自分はソファーで休もうと思ったら腕を掴まれて、結局は朝まで抱き枕状態だった。  隣で気持ち良く眠っている水瀬を見ていると腹が立つ。 「こら、起きろ」 「ふがっ」  鼻をつまんでやれば、苦しくて目を覚ました。 「おはようございます……」  大きなあくびをし、サイドボードに置かれたスマートフォンを手にして、 「ありゃ、もう九時ですね」  とベッドから起きあがった。 「どっかで朝飯を食ってから店に行くか」 「そうしましょ」  確か行く途中でファミレスがあったはずだ。着替えを済ませて水瀬が車のキーを取り出した。    それから、食事を終えて家具・インテリア店へと向かう。 「何を買うんですか?」 「あ……、布団と衣装ケース。後は座椅子に折り畳みのテーブルくらいか」  桜からは布団だけあればいいと言われたが、一人になりたいときに部屋で使ってもらいたい。 「ちゃぶ台なんてどうです?」 「おう」  座布団に座りお茶をすする、そんなのんびりとした過ごし方もいいなと思いかけたところに、べつなものと目が合ってしまった。 「あれがいい」  折り畳み式の文机と書いてあった。 「わ、書生さんですね」 「窓際に置いたらよくないか」 「はい。絶対にウケます」 「ウケ狙いじゃねぇし」  と笑い、それを購入することにした。 「後はマンションに運ぶだけですね」  買った荷物を車にのせ、今度は亮汰のマンションへと向かう。  なにもなかった和室に物を置いただけなのに、隆也が帰国するという実感がわいてきた。 「従兄弟さんの帰国、二日後でしたっけ?」 「あぁ。その日、半休を貰ったから仕事は任せる」 「了解です。それにしても、相当楽しみなんですね」  普段は仕事優先なのにとくすっと笑う。 「悪いか?」 「いいえ。それじゃ俺はそろそろ帰ります」  やたらといい笑顔を浮かべられた。本気で良かったなと思っているのだろう。  たまにそういうことを察してくるからムカつく。  だが、そういう男だからこそ可愛がってしまうわけだ。 「おう、今日はありがとうな。気を付けて帰れよ」 「はい。また明日」  玄関のドアが閉じ、亮汰は和室へと向かう。 「あと二日か……」  文机の前に座って天板を撫でる。  はやく会いたいという気持ちが抑えきれないのは、この部屋のせいだ。

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