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甘い蜜(2)

 そんなことがない限り覚えようなんて思わなかったと、素直に口にできるような歳ではなくなってしまった。 「まさか、知っていた言葉をいっただけじゃないよね?」 「ははは」  そうとも取れるように笑ってみせると、隆也にため息をつかれた。 「やっぱり自分で考えな」 「うーん、考えてみる」  目の前にふわりとしたホットケーキが置かれる。 「うわ、すげぇ」  溶けたバターとたっぷりのメイプルシロップ。それを見ただけで涎がでそうだ。 「紅茶でも煎れようか」 「いや、水でいい。隆也さん、頂きます」 「うん」  大きめにカットして一口。  ふわふわと柔らかく、シロップの味が口の中にひろがった。 「うまぁ」  ほうっとため息をつく。 「気に入ってもらえたようでよかった」  はじめて焼いてもらったのは焦げてぺったんこだったのに。昔のことを思いだしていたら、 「そういえば、覚えている? 焦げたホットケーキのこと」  隆也も同じだったようだ。正直にいうと苦くて硬いホットケーキは美味しくなかったが、お腹が空いた亮汰の為に一生懸命作ってくれた、その気持ちが嬉しかった。 「あれから隆也さんが料理をするようになったよな」 「そう。俺の作った料理で笑顔になるのを見たいと思ったんだ」  良い顔をしている。料理人という仕事は隆也とって天職だったのだろう。  きらきらとしていて、とてもかっこよい。亮汰の好きな従兄だ。 「いいな、それ」 「そうでしょう」  優しい顔で笑う。亮汰の知らない相手にも、同じように笑いかけるのだろう。 「……嫌だな」  ぼそっと声に出てしまう。 「ん?」  隆也にははっきりとは聞こえなかったようだが、亮汰は口に出していたことに驚いてフォークにさしたホットケーキが落ちた。シロップをたっぷりかけてあったので、服にもついてしまった。 「染みになるから脱いで」 「いや、かまわねぇから」 「駄目だよ」  とシャツを脱がせようと捲りあげられてしまうが、隆也の手が止まった。 「どうした」 「なんだ、そういうわけか」  隆也がシャツを元に戻した。なぜかその表情はぎこちなく、その瞬間、あることが頭をよぎり亮汰は立ち上がるとバスルームへと向かう。  汚れたシャツを籠に投げ、鏡に映った姿を見る。 「……やっぱり」  鎖骨のあたりに噛んだ痕がある。これを見た隆也が勘違いをしたのだろう。 「隆也さん、これはっ」  上半身、裸のまま隆也の前へと立つ。 「唯香ちゃんって実家に住んでいるって言っていたよね。亮汰、他の女性と浮気しているの?」  やはり勘違いをしている。 「違う、女じゃ……」  これはマーキングの意味でつけられたものではない。ただ、水瀬に噛み癖があるだけだ。 「相手は男なのか!」  いつも優しい顔しか見たことがなかった。それなのに本気で怒っている。 「そういうんのじゃねぇ」 「歯型なんかつけて。相手は唯香ちゃんのことを知っていて、こんな真似をしているの?」  と手が胸の突起に触れて、カリカリと爪をたてられてる。 「んっ」 「亮汰は、俺の知らない間に悪い子になったね」 「や、隆也さん」 「ねぇ、子供のころ、お風呂でしたことを覚えている?」  初めて夢射してしまった時のことだ。お漏らししてしまったとおもい、親に言えなくて隆也に相談した。  大人になったんだよと、お風呂場で自慰のやり方を教えて貰った。  あの時は恥ずかしさよりも、その行為が気持ち良かったことが勝り、何度か隆也にしてほしいと強請った。 「あの時みたいに、シてほしい?」  胸が感じるようになったのも隆也に教えられたこと。思い出と共に甘い誘惑が身体を痺れさせる。 「うん、シて」  目を見開いてこちらを見ている。まさか、亮汰がそんなことを口にするとは思っていなかった、そんな反応だ。

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