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マランタンデュ(2)
「隆也さん、もしかして勘違いしていない? 結婚するのは俺と唯香だからっ」
「……え?」
結婚するのは亮汰ではなく、幹の方なのかと二人を見つめ、
「え、だって、桜ちゃんが従弟って」
そう口にして気が付いた。そうだ、従弟は亮汰だけではない。
「やられた」
曖昧な言い方をして勘違いをさせたんだ。
「俺も従弟だよ、隆也さん」
苦笑いを浮かべる幹に、すまないと頭を下げる。
「もしかして、桜さんに?」
「そう。あ……、てっきり亮汰だと思ってた」
恥ずかしいと顔を手で覆う。
「気にしないでください。そこのところは兄に聞きましょう」
と振り向くように言われ、そのとおりにするとそこに亮汰が立っていた。
「りょう、た」
「約束をすっぽかすかと思っていたけれど、ちゃんと来てくれたんだな」
亮汰が隆也の手を掴んだ。
「ほら、上がって」
と腕を引かれて、階段の方へと向かう。
「え、亮汰」
「まずは俺と話すのが先。幹、お前等は後な」
「わかった」
後でねと、二人はすんなり離れてしまう。
亮汰に連れられ階段を上り部屋へと入る。そこは亮汰が使っていた部屋だ。
「亮汰……」
「結婚のことについては、ごめん。俺も一枚かんでる」
曖昧な言い方をして気が付くまでだまっている、これは桜が企んだことで、なかなか帰ってこない隆也に意地悪をしたわけだ。
「でもさ、実家に帰った時に叔母さんが言わなかったのか?」
「多分、母親も一枚かんでる」
「はは、そっか」
実の息子をはめるとは。なによりもはまってしまった自分が情けない。
よくよく思えば、おかしな点はいくつもあった。
あの部屋は女っ気があまりになさすぎた。二人の写真すらなかったのだから。
「なぁ、マンションの件も?」
「俺らが結婚するということ以外は本当だぞ」
「そうなんだ」
力が抜けた。しゃがみこむ隆也に亮太が手を差し出した。
「隆也さん、唯香のご飯、食べていくだろう?」
その手を握りしめて立ち上がる。
「あぁ。頂くよ」
「じゃぁ、下に行こうか」
部屋を出て階段を降りると下で幹が待っていた。
「ちゃんと謝った?」
「あぁ。な、隆也さん」
「うん。でも、あれは桜ちゃんも悪いしな」
それよりも本当に結婚をする幹と唯香に申し訳がない。
「ごめんな幹。嫌な気分にさせた」
「隆也さんは被害者でしょ。兄貴、俺達にも謝りなさい」
と腕を組む。亮太と違って顔が優しげだから怒っているように見えない。
きっと優しい旦那さんになるんだろうなと口元を綻ばす。
「幹、ごめんな」
「唯香にも後で謝るように。さ、ご飯の用意できてるから」
リビングにはすでに食事の用意がされていて、伯父と伯母が久しぶりとこちらに笑顔を向ける。
「ご無沙汰です」
「すっかり素敵になっちゃって」
「ありがとうございます」
腰を下ろすとその隣に亮太が座る。
唯香はすっかり伊崎家の嫁になっていて親とも仲が良い。
時折、幹と視線を合わせてほほ笑む姿を見ているとほっこりとしてきた。
「お似合いだろ、あの二人」
こそっと亮太が耳打つ。
「うん、そうだね」
二人で顔を見合わせ微笑むと、唯香がこちらをみていた。
「何、亮ちゃん、味がおかしかった?」
「違うよ。な、隆也さん」
「あぁ。おいしいよ、唯香ちゃん」
「よかったぁ」
心から嬉しそうな笑顔。
もしも亮太と彼女が本当に結婚することになっていたら、自分など割って入れぬとあきらめられたかもしれない。
まだ会ってまもないが、それだけ彼女に好感を持てた。
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