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第19話

   くちゅり、と後孔に潜らせた指を引き抜いて、蓮水(ハスミ)は熱っぽい息を吐いた。  部屋にあったハンドクリームを使って、自身で後ろをほぐしていたのだった。    仰向けに横たわった蓮華(レンゲ)が、蓮水をじっと見上げている。  膝立ちで彼の腰を跨ぐ体勢で準備を終えた蓮水は、男の屹立に手を添えて、囁いた。 「蓮華。そのまま、じっとしてろよ」  なにをされるのかまったくわかっていない蓮華は、忙しない瞬きを返してきた。    蓮水は、柔らかくなった自身の孔へと、蓮華の性器の先端をひたりと当てた。  ここが財部(たてべ)の屋敷であれば、それこそ至るところにローションやら淫具やらが忍ばせてあって、財部がその気になったときにはいつでも使えるように手入れされてあったが……この家にはそんなものなどひとつも用意していなくて、けれどこなれた蓮水の体はハンドクリームでも充分男を受け入れられる状態になっていた。    財部が死んだからと言って蓮水の貞節がまもられたわけではない。  いまは重役連中に嬲られているから、久しぶりの性交ということもなかった。  きたないな、と蓮水は思った。  きたない自分の体を、このきれいな男に使わせてもいいのだろうか。  この期に及んで、蓮水の中に迷いが生まれる。    それともこれは、血のつながった弟と交わろうとしていることに対する迷いだろうか。  蓮水は唇を引き結んだ。  きつく眉を寄せた表情で弟を見下ろすと、蓮華は黒々とした瞳を潤ませて、こちらを見ていた。その下半身は剥き出しだ。  もぞり……と彼の腰が動く。  勃起をしたまま放置されているのがつらいのだろう。  蓮水はまとわりついてくる逡巡を振り払い、隆々とした性器を付け根の方から撫で上げた。  びくっと反応を見せたそれを、蕩けた孔に押し当てて腰をゆっくりと落とした。  自分の貧相な体を見ると、蓮華の興奮が醒めてしまうかもしれないと思って、蓮水はパジャマの上下を纏ったままの恰好だ。  ズボンと下着だけを最低限ずらすだけにとどめ、服の裾で下腹部も蓮華の視界から隠れるようにしている。  ぬく……と肉の輪を押し開きながら、太く張り出したエラが入ってくる。  ゆるゆると息を吐きながら、蓮水は蓮華の牡を飲み込んでいった。 「う、わっ、な、なにこれっ」  蓮華が狼狽しきった声を上げた。 「あっ……、れんげ、もうちょっと、待って。いま気持ちよくしてあげるから」 「で、でもっ、ぼくのちんちん、がっ」 「うん。おまえのおちんちん、オレの中に入りたいって言ってる」  蓮水は肉付きの薄い自身の腹をひと撫でし、残りの肉棒もすべて収めるべく、蓮華の腹筋に手をついて体を支えながら、ずぷぷ……と体重を乗せた。  男根を咥えることに慣れた蓮水の秘部は、うまく男の形に広がった。  肉筒が体内に受け入れた蓮華を歓迎するように絡みつき、引き絞る動きを見せる。 「わぁっ、あっ、あぅっ」  蓮華が呻いた。  初めての性交で感じる刺激に、どうして良いかわからないと、涙をこぼしながら。  それでも、雄の本能なのだろうか、仰向けのままへこへこと腰を突き上げてくる。  逞しい陰茎に中をこすられて、蓮水の喉からも喘ぎがこぼれた。 「ああっ、あっ、れ、れんげっ」 「うぁっ、こしっ、かってにっ、うごくっ」  舌ったらず口調でそう言った蓮華の、筋張った大きな手が、握っていたシーツを離れて蓮水の腰を掴んできた。   「あ~っ、ちんちん、気持ちいいっ」  いい、いい、と繰り返しながら、蓮華が蓮水の孔を下から犯してくる。  技巧もなにもあったものではない。  ただ突っ込んで腰を振る。  それだけの動作なのに……熟れ切った蓮水のそこは、快感を見出してうねった。 「れんげっ、ま、待ってっ」    腰をホールドされたまま奥までを穿たれると、膝からちからが抜けてしまう。  踏ん張ることができずに、蓮水は男の性器を身の内に収めたままで、ぺたりと座り込む形となった。  尻たぶが蓮華の肌と密着する。  なめらかで温度の高い肌だった。  自身の体重をどこにも逃がすことができずに、一番深い場所まで陰茎を受け入れる形となった蓮水の内ももが、びくっ、びくっ、と細かな痙攣を起こした。  男根を食い締めた後孔が、うねうねと勝手に蠢くものだから、感じる場所に逞しい熱塊が当たり、それがランダムな刺激となって蓮水の全身に走るのだった。   「あ、あ、あ……」  蓮水の唇から、切れ切れの嬌声が漏れた。    つながってしまった。  弟と、体をつなげてしまった。  そんな後悔を感じるよりも先に、脳が快楽で支配されてゆく。  気持ちいい。  蓮華のペニスが、気持ちいい。    息の上がった蓮水よりも、さらに動物めいた呼吸を見せて。  蓮華が、突如として上体を起こした。 「う、わっ、えっ、な、なにっ」  蓮水の視界がぐるりと回る。  ドサッと背中に衝撃を感じて……気づけば蓮華を見上げていた。  体勢を入れ替えられたのだ。    仰向けになった蓮水の両足を、蓮華が抱え上げた。 「え、ちょ、ま、待ってっ」 「ち、ちんちん、溶けるっ。あっ、あっ、ぼ、ぼくの、ちんちんっ、溶けるぅっ」  獣のように、蓮華が腰を振った。  ばちゅばちゅと肉のぶつかる音が部屋に響く。  蓮華に揺さぶられながら、蓮水も喘いだ。 「あっ、あっ、あっ、ああっ」  潤んだ目を上に向けると、眉を歪めながら瞳を閉じて、無心に快楽を貪っている蓮華の姿があった。 「いいっ、気持ちいいよぅっ、ああっ、も、漏れるっ、出る、出るっ」 「い、いいよっ、あっ、あんっ、だ、出して、いいよっ」     蓮水は足を男の腰に絡め、さらに奥まで誘った。  抽送が速まる。  蓮水の中で、牡がひと際膨らんだ。    蓮華が吠えた。  パンッ、と強い突き上げが蓮水を襲った。  来る、と思った瞬間、陰茎が爆ぜて、体内に熱い飛沫がどくどくと注がれた。      自分だけが絶頂に達した蓮華が、ぶるりと体を震わせ、荒い呼吸のまま脱力した。  男の体が、蓮水に覆いかぶさってくる。  蓮水は両手を伸ばしてその背を抱き、汗に濡れた短髪を撫でた。   「……も、漏れちゃった……」  はぁ、はぁ、という呼気とともに、蓮華の掠れた声が耳朶にかかる。 「気持ち良かったか? 蓮華」  弟を抱き寄せたまま蓮水が問いかけると、顔の横でこくりと蓮華の頭が動くのが見えた。  蓮水はまだ射精に至っていない中途半端な状態であったが、蓮華が頷いたことで胸の内に奇妙な達成感が湧き起こった。  蓮華が蓮水の体で満足してくれた、ということ以外はもはやどうでもいい気分になった。 「おまえのおちんちんがまた腫れたら、兄ちゃんがこうやって治してあげるからな」  よしよし、と硬い感触の髪にてのひらを載せて弾ませると、蓮華がわずかに体を起こして蓮水を見下ろしてきた。  弟の黒々とした瞳に、蓮水の女のような面差しが映っている。    あ、の形に唇が開いた。   「あ、あり、がとう……」    もごり、と、ひどく動かしづらそうに、口を動かして。  蓮華がそう言った。  そして、視線をうろうろと落ち着きなく彷徨わせた後、彼は再び蓮水と目を合わせて、眉を寄せた困った表情を浮かべて言葉を続けた。 「は、ハスミ、さん……?」  蓮華に記憶はないから、兄とは言えない。  どう呼べばいいのかわからない、という迷いがありありと伝わってくるような……恐らくは飯岡の呼び方を真似たのだろう、言い方で。    蓮華が、そう、蓮水を呼んだ。  蓮水は咄嗟に、きつく男を抱きしめた。    間違っていない、と思った。  蓮水は間違ってはいない。  蓮華を蓮水の元に繋ぎとめるために、なにも知らない蓮華と、だまし討ちのように肌を合わせたこと。  実の弟と体の関係を持ったこと。  それは、間違いではなかった。  だっていま、蓮華は蓮水の腕の中に居て。  初めて、蓮水の名を呼んでくれたのだから……。    なのになぜ、泣きたいような気分になるのだろう。  蓮水は自分で自分のことがわからなくなり、蓮華が嫌がって身を捩るまで、彼の体にしがみついていた……。   

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