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「お、おい、見ろよ、あれ……」 「え、女子!? って、そんなわけないか、ここ男子校だし。何、ってことはあれ、男子? あれで?」 「声、掛けてみるか?」 「行っちゃう?」  ニヤリと笑った二人の男子は、意気投合し一人の男の子の方へ向かった。  ざわざわと周りの注目を集めている彼は、その視線をものともせずに飄々と真っ直ぐ前を見て歩いている。 「ねえ、君」  二人のうちの一人が肩をトントンと叩いた。  立ち止まり振り返った男の子に、思わず二人は口笛を吹きそうになる。  染めているのか、プラチナブロンドの髪はふわふわで、思わずわしゃわしゃといじりたくなるほど。  知らない人に声を掛けられたからかキョトンと半開きになった口は、幼さが垣間見え通行人も立ち止まりこちらを見て、男子校であるはずなのに「キャー」などと黄色い悲鳴が上がった。 「新入生? 名前は?」  にやけそうになる口を何とか抑えて平静を装いつつそう問えば、何を思ったのかその男の子は口をキュッとすぼめ、両手で握りこぶしを作った。 「新入生、です! ヤンキー、です!」  両目を閉じて必死にそう告げる様は可愛らしくあるが、はてその言葉に妙な違和感を覚え、微笑みながらも皆首を傾げた。  そして、その違和感を男の子から漂う癒しパワーから早々に抜け出したもう一人の男が、皆を代弁して疑問をぶつける。 「ん? ヤンキー?」 「そう、です!」  プルプルという擬音語が聞こえてきそうな男の子の必死な様子に、思わずへにゃりとした口で手を伸ばした男は、皆が羨ましがる中そのふわふわの髪にポンポンと手を落とした。 「そっか、ヤンキーか~」 「はい!」  幻覚か、男の子に耳と尻尾が見え始める。  否定されなかったことが嬉しかったのか満面の笑みを見せた男の子に、周囲の何人かが前かがみで去っていった。 「ほら、何固まってるんだ、早く帰りなさい。……ん? 君は、新入生かね? 入学式は明日だろう? どうしたんだい」 「ちょっと、用事があって……」 「そうか。ほら、皆散りなさい。この子が喋りにくいだろう」  しっしっと手を振るのを見て、「じゃあね~」と二人も去った。  入学式前日に来た、新入生に紛れる天使。  早くもその噂は、校内を駆け巡った。

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