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1ー1 懐かれました

「え~、今日というめでたいこの日を、こうして晴れた天気の中迎える事ができ、えー大変うれしく思います。これからの日々は皆さんにとって大変貴重であり、また掛け替えのないものとなると祈っております。え~、また――」  式典特有の、厳粛とした雰囲気の中で。  長い校長先生の話を聞きながら、流川(るかわ)(しのぶ)はふぁと欠伸を漏らした。  周りの新入生は緊張で顔を強張らせている者が多かったが、忍にとってこの行事はただ面倒なだけ。初日からサボり目立つのもまた視線が煩わしく感じると思ったのでサボらなかったが、寝坊しただのなんだのと理由をつけサボっても良かったかもしれない。そう思うまでに面倒な行事であった。 「最後に、新入生の皆さん、この高校での日々を楽しんでください。本日は誠に、おめでとうございます」  どうやら、校長の話が終わったらしい。拍手に包まれ壇上から下りると、あと少しとなったプログラムを消化するため司会が台本を読み上げる。  それに目を向けつつまた一つ欠伸を漏らした忍は、せめて寝てしまわないように気を引き締めながら、話も聞かずボーっとやり過ごした。  長く感じた入学式も漸く終わり、新入生が退場していく。  怠い、という態度を隠そうともせず両手をポケットに入れたまま歩き出した忍は、そのまま列から外れ今からでもサボってしまおうかと悩んだ。  これからある予定と言っても、自己紹介だの今後の時間割だの予定表だのを配ったりするだけだろう。  考えただけでも面倒そうだ。  まあ……学校生活なんて、大抵そういうものだろうけれど。 「ん?」  と、サボろうかと悩みつつも親しい友達もいないため、最低限の先生の話すら把握できなくなるか、と諦めかけた所で、忍の視界に明るい髪色が目に入った。  地毛なのかと見まがうほど綺麗に染まっているプラチナブロンドは、その持ち主の挙動不審な動きに揺れている。 「どうした?」 「へ!?」  普通なら声を掛けないが、体育館から校舎に入り、入り口の靴箱の端からこちらを覗いている目があまりにも悲しそうで、思わず列から離れ声を掛けた。  これは教室に戻るのが面倒になり結局サボるパターンだな、と自らの今後の行動を予測しながら、瞳を潤ませているそいつを忍は見下ろした。 「あ、あの、あの……!」 「ああ」 「……ささ、サボってやった、です!」 「は?」 「ひぇっ」  その気弱そうな様相から『サボる』なんて出て来なさそうな言葉が出てきて、聞き返すように漏らした声が相手をビビらせてしまったらしい。  大袈裟にびくつきながら、彼はそわそわと視線を彷徨わせる。

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