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「ねね、寝坊して、き、気付いたら九時になってて! 慌てて来た、けど、もう始まってて、入ってけなくて……!」
涙混じりに彼はそう零すが、それは『サボってやった』ではなく『サボってしまった』が正しいだろう。両者には後悔の量に雲泥の差がある。
「お前、何組?」
「いい、一組……」
「んじゃ、こっちだ」
このままバックレようと思っていたが、致し方ない。
彼に『あっちだ』と教室を指し示したところで教室の前で立ち往生するのは目に見えているし、せっかくの同じクラスだ、こうなったら教室まで面倒を見てやろうじゃないか。
と、何気なく気が向いた忍は、そのまま彼に背を向け歩き出した。
一年生は、確か三階だ。二年が二階、三年が一階、と案内図に書いてあったはず。
そんなぼんやりとした記憶を頼りに階段を上り、『1-1』とプレートの掲げられた教室を見つける。
後ろから彼がしっかりとついてきている事を確認しつつ、忍は堂々と前の方のドアを開けた。
「すみません、遅れました」
「君は……」
この教室の担任だろう。教卓の前に立つ男は、好青年で真面目そうな雰囲気を纏いつつ忍へと目を向けた。
「今自己紹介の最中だから、座ってね。あそこの空いてる席の……名前、聞いても良いかな?」
「流川忍です」
「じゃあ、あそこの後ろの方だね」
示されたのは、窓際の後ろから二番目の席だった。
その前の席も空いているという事は、後ろから付いてきているはずの彼の席だろう。
そういえば、彼はどうしたのだろうか……?
と席に荷物を置き教室の前を見たら、決壊寸前の彼が、そこにいた。
「お、遅れて、ごめんなさいぃぃ……!」
そう叫ぶと、本格的に泣き始める。
抑えようとしているのか声を押し殺してはいるが、涙は次々に溢れそれを真新しい制服の袖で拭っていく。
彼が泣き始めた事で、生徒の視線がいくつかこちらを向いた。
彼は可愛らしい見た目をしている。身長も百六十前後だろうし、目もクリクリと大きくまるで女の子みたいだ。
そんな庇護欲の掻き立てられる男の子が泣いている。それも、いじめっ子のような仏頂面をした男と直前まで一緒にいたようで。
そりゃ、勘違いもされるだろう。
「な、泣かないでください。ほら、怖くない怖くない」
担任が子供をあやすように彼の頭に手を乗せ、そのまま引き寄せると抱きしめあやし始めた。
彼はただ「ごめんなさい」を繰り返していて、中々泣き止む気配がない。
「おい、あいつってあれだろ? あの、暴行事件の……」
「ああ、見たことあると思ったらそれだ。同じクラスか……最悪だな」
「早速一人泣かせてるしな」
ちらほらと、忍に関する情報が噂され始める。
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