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「元々、一人暮らしをしようか寮に入ろうか、直前まで迷っていたんです。なので、学校は何も悪くないんですよ」  何と言ったら良いか視線を彷徨わせる忍に、蓮は両手を叩き「重たい空気はここまでです! 忍くんには、たっぷりと食べてもらいますよ! 成長期なんですから!」といつもの笑顔を浮かべた。 「俺より、お前が成長した方が良いんじゃねえの? 背、低いだろ」 「僕はこれから伸びるんです! 見ててください! 『高校で一番背が伸びた男』の称号を得て見せますので!」 「聞いたことねえぞ、んな称号」 「大丈夫です、自分で広めますから!」  何が大丈夫かは知らないが、少し元気になったみたいだ。  いつも元気なのは正直な所うざったらしいが、落ち着いているのもそれはそれでうざったい。  全く面倒臭ぇな、と頭をガシガシと掻いていると、「ハっ」といきなり青ざめた蓮が慌てたように忍を見つめた。 「ぼ、お、オレ、『僕』って言っちゃってました……聞かなかったことにしてください」 「……別に『僕』が言いやすいんだったら、それで良いと思うけど?」 「そ、それだと、ヤンキーっぽくないじゃないですか!」 「え? そもそもお前、ヤンキーっぽさ目指してたのか?」  ヤンキーは名乗るだけで、そんな素振り一度も見たことなかったのに。  言外にそう告げれば、蓮は頬を膨らませた。 「酷いです、忍くん……オレ、ヤンキー界のプリンスになりたいのに」 「その容姿ならいけるんじゃないか?」 「強さでです!」 「なら諦めろ、何年かかろうとそれは無理だ」  人の本質は中々変わるものではない。人を殴る事に躊躇し、殴るよりも殴られる方を選びそうな蓮が、強さを手に入れるのは到底無理な話だろう。 「そもそも、何でヤンキーになりたいんだよ? 良いことねえだろ、先生に目つけられるし、クラスメイトからも避けられるし、何かあったら悪者扱いだし、碌な事ねえぞ?」 「かっこいいじゃないですか! ヤンキーさんは皆の憧れの的なんです!」 「んな夢見るような事、何もねえけどな」  そもそも、忍だってヤンキーかと言われれば首を傾げるレベルだ。  授業はサボるし今言ったように先生に目を付けられたりクラスメイトからも関わりたくないと避けられたり、売られた喧嘩は買ったりするが、そう頻繁に殴り合いの喧嘩をしているわけでもない。  それでも学校は居心地の悪い場所で、蓮が憧れる理由が分からない。 「それでもオレは、ヤンキーになりたいんです」  ふわりと笑うヤンキー見習いは、やはり一生かかったとしてもヤンキーにはなれないだろうと忍は確信した。

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