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第1話

「なんだよ、お前!  オメガの癖に生意気な!」  千寿は、自分に向かって暴言を吐く生徒に向け、冷ややかできつい視線を投げかけた。 「お前ら、ほんと、口ばっか!  アルファかベータか知らねーけど。  人を見下す暇があったら、とっとと学年首位から俺を引きずりおろしてくんねーかな?  俺は、最下層のオメガなんだろ?  だったらそれくらい、優秀な方々なら、簡単にできるはずだよなあ?  じゃねーと、負け犬の遠吠え過ぎて、相手する気になんねーわ!」  そう言い放つと、千寿に食って掛かっていた者たちは忌々しそうにしながらも、それ以上の罵倒が出来ずにいた。  千寿はそんな連中にたいして、これ見よがしに鼻で笑った。  遠巻きに見ている連中、主に2年のやつらが、「また佐倉千寿が暴れてる……」と、千寿にしてみたら非常に不本意な言葉を吐いていた。  千寿にしてみたら、この世界は、何処かいびつだ。  そもそも、性別の差なんて、遺伝子レベルじゃ1%未満の違いしかない。  なのにオメガだからと言って理由もなく蔑むなんて、本当にばかばかしい。  どいつもこいつも些細な事柄に注目しすぎて肝心なことに気付いていないと、千寿は思うのだ。  能力の差なんて、本人の努力次第でどうにでもカバーできる。  どんなにアルファの知能が高くても。  だがそれに甘んじてなんの努力もせず、それでいてオメガの千寿に遅れを取ると、牙をむいて攻撃してくるアルファ。  千寿にしてみたら、相手をする価値もない奴らだ。  そもそもこの洛楠大学付属高校はアルファ、ベータ、オメガの共学校なのだ。  だから、この学校に通うアルファは、アルファのみ入学を許されたエリート校を落ちた連中。つまり、アルファにとっては落ちこぼれの類に入る。  彼らにとってそんな二流高校で出会った、たかがオメガに学年首位を選ばれるなんて、屈辱でしかないのだろう。  ―――――だがそれはあくまで奴らの理屈だ。       俺には関係ない。       アルファがなんだ。       俺らオメガのフェロモンに踊らされるだけの、気の毒な連中じぇねーか。 「ほんと……アルファの連中、檻に入れて強制禁欲させてやりてーわ!  ヒートのオメガ目の前にして手が出せなきゃどうなっちまうんだろうな?」 「それはずいぶんエグイ趣味だなー。  センジュ」  千寿は背後から不意に話しかけられ、びくっと体を震わせた。  のほほんとした雰囲気を醸し出す、人間パワースポットの国語教諭、須﨑慧だ。 「いたのかよっ」  この高校では一、二を争う人気教諭なのだが、千寿は須崎が苦手だった。  ついつい、声を荒げてしまう。  角をどこかで落としてきたように丸い性格のこの教師が、アルファだなんて誰に言っても信じないだろう。  しかし間違いなく須崎はアルファで、千寿が小さい時に勝手に定められた、婚約者なのだった。 「まぁね。  一応、ナイトのつもりだから」  須崎の言葉に、千寿は思わず噴き出した。  身長こそ負けているが、須崎はどちらかというと細身の体型だ。  細腕でどう守るつもりなのかと思ったら、ついつい吹き出してしまったのだ。 「お?  いいね、センジュ。  久しぶりに笑ったな。  最近眉間にしわ寄せてたから美貌に傷がつくんじゃないかと気が気じゃなかったから、ほっとする。いつもそうしてろよ」 「アルファぶるなよ!  ……ほんと、あんたのそういうとこ、ほんとムカツク!」  ―――――人をオメガ扱いしやがって!       美貌が傷つくってなんだよ! 馬鹿か!  そんな千寿の罵倒を歯牙にもかけない様子で、須崎はぽんぽんとやさしく千寿の頭を軽くたたく。  子供をなだめるような手つきで触れてくるから、そんな須崎にも千寿はイライラとしてしまうのだ。  ―――――ほんと、ヤな奴!  立ち去る須崎の背中を千寿が睨んでいると、須崎は急に立ち止まった。 「……言っておくが、俺は脱いだらすごいタイプだからね」  ―――――立ち止まってまで言うことかよ! 「お前の体なんて、知らねーし……」  唇からこぼれ落ちた千寿の声は、廊下の隅に吸い込まれるように小さかった。  

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