20 / 42
新しい職場・5
「遊隆、こっち来いよ」
咥え煙草の雀夜が手招きし、フラフラな足取りで遊隆がソファへ近付いてきた。俺の敵意のレーダーがその整った顔に向けられる。
「こいつが新人の桃陽だ。仲良くしてやれ」
「よろしく。……若いな」
「十八歳だよ」
「へえ」
遊隆は感心したように相槌を打って、俺の隣にどっかりと腰を下ろした。
「で、こいつが俺の今の相方、遊隆だ。二十一だから、お前の三つ年上だな」
「よろしく」
笑顔の裏にたっぷりと含まれた俺の敵意に、遊隆も雀夜も気付いていない。
「松岡さん、俺しばらく休憩してていい? 雀夜の馬鹿が加減してくんねぇから疲れたわ」
「ちょうどその話もしてたところだ。遊隆はガタイがいいから雀夜も加減できねえんだろうよ」
「マジで息止まるかと思ったっすよ。――雀夜、お前ちょっとは相手のことも考えろよな」
「知るか。お前が慣れればいいだけの話だ。無駄に鍛えてる訳じゃねえんだろ」
「うるせえなー、もう」
「………」
遊隆から男の匂いがする。それが雀夜のものだと分かり、俺はきつく拳を握った。
それから少し松岡さんと話をして、俺の初出勤日は一週間後の土曜日に決定した。それまでに売り専の仕事を全てこなして、新たな気持ちに切り替えてからまたこの事務所を訪れることになる。
「雀夜、外まで送ってよ」
露骨に面倒臭そうな顔をしながらも、服に着替えた雀夜は立ち上がって俺についてきてくれた。スタッフと松岡さん、それから遊隆にも軽く頭を下げて事務所を後にする。
二人きりになったところで切り出した。
「……俺、カメラの前で雀夜とできると思ってちょっと期待してたよ。でも雀夜の相手は遊隆だけなんだな」
唇を尖らせる俺を鼻で笑い、雀夜が大きな手を俺の頭上にかざした。ぶたれると思って、咄嗟に体を強張らせる。
だけどその手は、俺の頭に優しく乗せられただけだった。
「永久に、って訳じゃねえ。ひょっとしたらいつかはできるかもしんねえな」
「………」
それを良い返事と捉えた俺は、思い切って呟いた。
「ゆ、遊隆より……俺の方が雀夜に合ってると思う。俺達なら、誰にも負けない作品作れると思う……」
こんなことを言う俺は嫌な奴だ。雀夜とはたった一度交わっただけだし、遊隆のことなんて知りもしないのに。俺より遊隆の方が雀夜との付き合いは長いのに。分かってるけど、言わずにいられなかった。
「……いいこと教えてやろうか」
「なに?」
正面玄関を出たところで、雀夜が俺に耳打ちした。
「遊隆もお前もそんなに変わらねえ。両方とも俺にとっては、まだまだガキだ」
「………」
「見た目なんて二の次だぜ。大事なのは中身だ、覚えとけ」
「……ん」
「じゃあな。気をつけて帰れや」
振り返らずに歩き出す。頭の中では闘志と嫉妬が渦巻いていた。
ともだちにシェアしよう!