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初撮影

 それから一週間後、俺は初めて訪れた時よりもいくらか緊張しながら再び東京ブレインのビルに入った。 「おはようございます、桃陽です」 「桃陽くん、おはよー」スタッフの皆が作業の手を止めて、俺に挨拶してくれる。この間の大量のケーキが功を成したみたいだ。  事務所のベランダで煙草を吸っていた雀夜が、俺に軽く手を上げた。隣には遊隆もいる。  頑張らないと。雀夜に文句なしに認めてもらえるくらい、良い作品を作らないと。俺は心の中で気合を入れて、松岡さんに歩み寄って言った。 「今日はよろしくお願いします! 何度も言うけど、俺、なんでもやりますからっ!」 「ん? ああ、よろしく。気持ちはありがたいが、今日は一人での撮影だけだぞ」 「えぇっ? うー。絡み動画じゃないのかぁ……」 「一人の方が相手との絡みが無い分、客に伝えるのは難しいんだ。気合入れて損はない」 「ですよね!」  マフラーとコートを脱ぐと、待ち構えていたように近くにいたスタッフがそれを受け取った。 「まずは何すればいいですか? もう撮影する?」 「初めはヘアメイクだが……髪型は自分でセットしたのか?」  前髪を横に分けて、サイドと後ろを跳ねさせた俺のヘアスタイルは、売り専でいつもエースの客と会う時にしていた髪型だ。 「似合ってるな。そのままでもいけるか」  それから俺は、昨日雀夜と遊隆が撮影していた部屋に連れていかれた。さすがに撮影で使っていたベッドのシーツは替えてある。 「衣装用意してあるから、着替えてくれ」  松岡さんが言うと、スタイリストらしきスタッフが俺に衣装を渡してきた。ちょっといかついドクロのプリントが入った普通のTシャツ、カーキ色のチノパン。 「普段着なんだ。もっとすごいの想像してたんだけどな」 「今日は自己紹介だからね。他にもコスプレ衣装はいっぱいあるよ。学生とか警察とかお医者さんとか、それこそ猫耳のメイド服なんかもね」 「うー。女装だけは嫌だな……」  渡された服に着替え終わった時には、既にカメラや照明の準備も整えられていた。 「大丈夫か桃陽」 「大丈夫です。いつでもできます!」 「よし、そんじゃベッド座れ」  浅く腰かけると、俺の正面……カメラには映らない位置に、スタッフが椅子を用意して座った。 「桃陽くんこんにちは。今日担当させてもらう新井です」 「はい!」  松岡さんが頷き、周りのスタッフに合図する。 「じゃあ桃陽くん、今日はよろしくお願いします」  カメラが回りだし、俺はとびきりの笑顔でそれに応えた。 「まず始めに改めて名前と年齢、簡単な自己紹介をお願いします」 「桃陽です、十八歳、B型。つい最近まで某クラブで働いてました。この仕事は今日が初めてだから、ちょっと緊張してるかも」 「年齢より幼く見えるね。相当モテるでしょ」 「よく言われるけど本当に十八だよ。年上にはモテるけど、年下とタメには嫌われてる」  新井さんが困ったように笑った。 「桃陽くん、女の子と付き合ったことは?」 「ないけど、女の子はみんな可愛くて好きだよ。妹も三人いるしね」 「そうなんだ。じゃあ経験は男性としかない感じなのかな」 「うん、そう」 「ちなみに一番最近だといつエッチした?」 「昨日かな」  仕事でだけど、と心の中で付け足した。 「じゃああんまり溜まってないのかもね」 「どうだろ。するのは好きだから、溜まってなくてもいつでもできるけど」  松岡さんが腕組みをして俺を見ている。どんな質問にもハキハキ答える俺に、良い印象を持ってくれている……と思う。  その後いくつか受け答えをして、新井さんがチラリと松岡さんを見てから言った。 「それじゃあ、服脱いでもらっていいかな」  ベッドに座ったままでTシャツを脱ぐ。続いてベルトを外し、ズボンを脱いだ。  雀夜、見に来てくれればいいのに……。

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