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初撮影・2

「あっ、と……。パンツはまだいいよ」  下着姿でベッドの前に立たされ、カメラのシャッターが何度も切られた。売り専の時も雑誌取材なんかで写真を撮られる経験はあったから、こういう時にどういう表情をすればいいかは分かっている。 「桃陽くん、肌白いねー。柔らかそう」 「柔らかいよ? 触ってみる?」 「いやいや、それはまた次の機会にぜひ」 「………」  スタッフが出入りを繰り返すために何度も扉が音もなく開け閉めされ、その度に雀夜が来てくれたのかと思って、いちいち視線を向けてしまう。 「桃陽、正面だけに集中しろ」  松岡さんの容赦ない指示が飛ぶ。俺は軽く頬を擦って、気合を入れ直した。 「桃陽くんは、よくオナニーする?」 「あんまりしないかも……したくなったら、セックスするから」 「直球だね。今日はこれからしてもらうんだけど、大丈夫かな」 「できるよ。見られてると恥ずかしいけどね」  再び腰掛け、片脚を曲げてベッドの上に乗せる。俺は下着の上から自分のそれを鷲掴みにし、ゆっくりと揉みしだいていった。 「………」  見られてると興奮する。けど、もっと強い刺激を知っている俺だから、自分で触ってもなかなか反応してくれない。普通の男子なら自慰行為に明け暮れるであろう思春期も、俺は本番ばかりしていたのだ。今更オナニーなんて……  考え、すぐに打ち消した。頑張ると決めたんだ。これくらい軽くクリアしてみせる。雀夜だったらどんなに勃たないシチュエーションでも勃たせられるはずだ。少しでも、彼に近付かないと……。 「んっ、あ……」  半分下ろした下着が、足の自由を制限している。縛られてると思えばたぶん、少しはエロい気分になれるかも。 「ふぅ、あっ……あ」  上下に擦りながら、もう片方の手で先端をいじる。ぬるぬるとした体液が指に付着し、卑猥な音が心地好く耳に届いた。段々と気分が高まってゆく。  顔の近くに向けられたカメラを見上げた瞬間、視界の端に雀夜の姿が映った。 「あ……」  雀夜。  来てくれたんだ。俺の初めての撮影を見に、雀夜がわざわざ……。 「あぁ……、あ、んっ」  カメラを持つスタッフの背後に立った雀夜が、無表情のままでニッと歯を見せた。こうなったらもう、止まらない。 (雀夜……。雀夜っ……)  潤んだ目でカメラを――雀夜を見つめる。表情と声に熱が籠もる。いつの間にか「見せる」ための俺のオナニーは、「見てもらう」ものに変わっていた。 「やぁっ、あ……ンっ……」  無表情の雀夜。時折松岡さんと小声で何かを話している。その目は冷たく鋭いのに、熱くて美しい。一秒でも目を離してもらいたくなくて、俺は一瞬一瞬に全力で臨んだ。ただ擦るだけじゃなくて指先で先端を捏ねたり、座ったままポーズを変えてみたり、自分で乳首に触れたり。雀夜が興奮して撮影に参加すると言ってくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱いていた。  だけどもちろんそんなことが起こるはずもなく、俺はほどなくしてカメラの前で絶頂に達した。 「ふあぁっ……」  シーツに飛び散った精液が映される。昨日セックスしたばかりの割にはよく出た方だ。 「はぁっ、ぁ……」 「はいオッケー」  松岡さんが両手を叩いて言った。途端に、現場の緊張した空気が弛み出す。 「桃陽、お疲れ」  義次さんが俺にタオルを渡してくれて、更にバスローブを着せてくれようとした……が、俺はそれを振り切ってベッドを降り、全裸のままで正面に突進する。 「雀夜っ」  ぶつかるようにして抱きつき、広い胸にめいっぱい頬を擦り付けると、雀夜は眉を顰めて片手で俺の頭を押しのけた。 「汚ねぇな、お前。せめて手くらい洗えよ」 「なぁなぁ、俺のこと見に来てくれたの? 俺が初撮影だから? オナニーしてるところ見たかったから?」 「見たかねえよ、そんなモン。幸城に呼ばれて来ただけだ」 「松岡さんに?」 「俺がいるとお前のテンションが上がって、いい動画になると思ったんだってよ」 「………」  そうだったのか。松岡さんの予想は見事に的中した訳だけど、なんだか少しショックだった。雀夜がいなくても、あのままいけば良い演技ができたと思う。初めてだから松岡さんもまだ不安なのは分かるけど、少しくらい俺のこと信じてくれてもいいのに。 「……俺、どうだった?」 「別に。良かったんじゃねえの。知らんけど」  相変わらず無愛想で意地悪な雀夜。そんな顔されたら、心も体も、キュンとなってしまう。 「この後、どうするのかな」 「たぶん昼飯だ。一時間休憩」 「雀夜も? 一緒にご飯食えるの?」 「その前にまずシャワー浴びて服を着ろ」  全裸のまま雀夜に抱きついている俺を、スタッフが作業をしながら微笑ましそうに見ている。恥ずかしくなり、俺はそそくさと雀夜から離れてシャワー室に向かった。

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