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うまくいかない・3

「……嘘だ」  必死にそれを否定する。そんな馬鹿なことがある訳ない。事実、さっきまで俺は喘ぎ乱れ、あんなに興奮していたじゃないか。多少の演技はあったけど、気持ち良かったことには変わりはなかった。  じゃあどうして、松岡さんは…… 「桃陽」 「っ……!」  開け放たれていた浴室の扉。そこに、いつの間にか腕組みをした松岡さんが立っていた。 「お、お疲れ様です……。見ないでくださいよ、恥ずかしいな」 「今回の撮影、何か感じるものがあったか?」  意味深な台詞を投げかけられ、俺は怒られる覚悟を決めてシャワーを止めた。全裸のまま、松岡さんと向き合う。 「俺、……自分でも、分からなくて……」 「何が分からない?」 「……逆に、松岡さんは何が駄目だったと思いましたか」  しばしの沈黙があった後、松岡さんがゆっくりと口を開いた。 「俺には、桃陽のプレイがどうも淡泊な感じに見えた。実際初めての絡み撮影だから、多少の緊張や、想像と違う部分なんかもあったかもしれねえ。だけどそれを別としても、桃陽らしくないと思った。雀夜が認めた男、ってほどでもねえ……そう思った。こんなんで売り専のナンバーワンだったのか。ってな」  ……やっぱり。松岡さんは気付いていたんだ。 「何か気付いたこと、感じたことがあるなら言ってくれて構わない。それを加味して企画を練るのが俺らの仕事だからな」  それが許されるならば……  俺は濡れた手で頬を擦り、松岡さんから視線を逸らした。 「……俺はあの日雀夜とセックスして、知ってしまったんだと思います……。他の人とはどうやってもあれ以上の領域には行けない。できると思ってた。相手が誰でも、俺なら心から楽しんでてきると思ってた。だけど……」 「相手が雀夜じゃなきゃ、やる気でねえってことか?」 「そんなことは……」 「無意識のうちに、他の男を雀夜と比べてるってことか」  ぎゅっと目を閉じ、頷いた。松岡さんが溜息をつく。 「惚れるのは勝手だが、仕事に私情を挟むな。確か俺、お前にそう言ったよな?」 「……はい」 「少し頭を冷やせ。それで、今後について考えろ」  踵を返し、松岡さんが浴室を出て行った。 「……っ……。う……」  俺は複雑な思いに耐え切れず、声を押し殺して唇を噛んだ。

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