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うまくいかない・2

 その台詞を合図に、二人が身を乗り出して俺の頬に唇を寄せた。 「桃陽はいやらしい奴だな。自分から罰を望むなんてな」 「はぁ、う……」  両頬を舐められ、背中にゾクゾクとした戦慄にも似た感覚が走った。 「お仕置きしてやる」  ブラウスの上から、二人に体を撫でられる。そうしながら首筋や喉を舐められると、あっという間に全身が熱くなってきて、俺は小さく身悶えながら二人の頭を抱きしめた。 「ご主人様、もっと……良くして」  目の前まで近付いてきたカメラを上目に見つめ、それを雀夜だと思って懇願する。 「俺のこと、もっと虐めて……」  外されたボタンの隙間から、リョウの手が入ってきた。硬く尖った乳首を指先で擦られれば、もう完全に快感のことしか考えられなくなる。  ソファから降りたタカシが床に膝をつき、エプロンを捲って俺が穿いているショートパンツのファスナーを下ろした。 「ふあ、あ……、気持ち、いっ……!」  咥えられ、喘ぎ乱れる俺を、松岡さんを始めスタッフ全員が見ている。言い様のない快感が身体中を這いずり周り、俺は腰をくねらせて更に声をあげた。  それから、床に跪いた俺の左右に立った二人のペニスを交互に口に含み、たっぷりと顔射された後に一旦仕切り直して、ベッドの上で犯された。  俺の中で変化が起きたのは、その時だ。 「あんっ、あっ、あ……ご主人様ぁっ……」  タカシにバックから突かれて、喉の奥から濡れた声が溢れてくる。屹立した先端からも、透明な体液が溢れてくる。腰を振る音、擦られる感触……気持ちいい。気持ちいいのに、頭の中では「早く終われ」と繰り返している。  タカシをバックでイカせた後、リョウの上に乗って自ら腰を振った。  両腕を強く掴まれて、自分の中にリョウのペニスを突き刺すように何度も何度も、激しく腰を上下させた。騎乗は俺が一番好きな体位だ。だけどやっぱり、快感に声を張り上げていても頭の中では「さっさとイけ」――そればかりを思っていた。体は気持ちいいのに、頭では一刻も早く解放されたがっている。  だけどこれは撮影で、好き勝手に体位を変えたり射精していいというものじゃない。あくまでも「他人に見せる」セックスなんだ。俺は腰を上下させながら何度も首を振り、自分の中の勝手な思いを打ち消した。  集中しろ、桃陽!  自分自身への叱咤が雀夜の声となって、頭の中に響き渡る。 「っ、桃陽……」 「ご主人、様ぁっ……!」  最後に正常位で犯され、ようやく射精OKの合図が出た。 「い、イくっ……」  飛び散った精液が自分の腹に付着する。その後に、リュウとタカシがゴムの中に出した精液も同じように腹の上へ絞り出された。  息も絶え絶えになった俺の全身を、カメラが舐めるように映してゆく。  完璧だった。表情も、声も、イくタイミングも。 「お疲れ、桃陽良かったよ!」  渡されたバスローブを羽織り、フラフラの足取りで浴室に向かう。  完璧だったと思う。 「………」  だけど、どうして……  俺は、松岡さんが首を捻っていたのを見逃さなかった。 「知らないうちに、勝手な思いがプレイに出ちゃったのかな……」  相手が雀夜じゃないから? あんな服を着せられたから?  だとしたら俺は最低だ。自分でこの企画を提案しておきながら、無意識のうちに百パーセントの力を出さなかったことになる。 「……駄目だ。こんなんじゃ駄目だ」  頭からシャワーを浴び、しばらくの間目を閉じて考え込む。そのうち、体が震えてくるのを感じた。  あの日、雀夜が言っていたことが現実となってしまった。  ――普通のセックスじゃあ、もう物足りねえだろうな。  たった一度雀夜に抱かれただけで、他の男とセックスが……できなく、なってしまった?

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