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【番外】バッドモーニング・コール(6)

「ねえ、槙野さん?」 寝室の明かりを消して常夜灯だけにしてから、神崎が俺の布団にもぐり込んできた。 神崎の頭を抱いてやると、甘えるように胸にすり寄ってくる。 「なんだ?」 「珠ちゃんが早くうちに慣れてくれるといいな」 「そうだな」 しばらく沈黙が続いて、眠ってしまったかと思った頃、神崎が再び口を開いた。 「珠ちゃんさ、なんか昔の俺を見てるみたいなんだ」 黙って俺は神崎の頬を撫でた。 「傷だらけで誰も頼れなくなって、もうだめだと思ったら急に助けられて。でもやっぱり信じていいのか分からなくて施設でも周りに馴染めなかった」 呟くように神崎は続ける。 「俺は、その時にゆっきーがちょうど施設に入ってきて、何となく声をかけてから他の子とも喋れるようになったけど。珠ちゃんはどうなんだろ」 「うーん……しばらくそっとしといてやった方が良いかもな。そのうち腹が減ってエサを食べに出てくるさ」 「そうだね。……俺が珠ちゃんにとっての槙野さんになれれば良いんだけど」 「ゆっくり仲良くなればいい」 神崎をそっと撫でているうちに、俺も眠ってしまった。 翌朝。 朝食を食べていると、物音に誘われたのか、珠がケージの入り口に顔を出した。青と緑の目で辺りを見回している。 俺と神崎が息を飲んで見守っていると、なんと自分のエサを食べ終わった鈴が来て、珠の首根っこを咥えてエサのある場所に運んでいった。 恐る恐るエサの匂いを嗅いでいた珠だが、やがて口をつけて食べ始めた。 俺たちはほっと一息ついて、朝食を再開した。 腹が満たされたことで少し警戒がとけたのか、食べ終わった珠は部屋の中を探検し始めた。 おもちゃの匂いを嗅いだり、舐めてみたり。 そのうち、神崎の足を見つけてその小さな前足を乗せた。 「にぃ」 神崎が食事を中断して、珠にそっと手を差しのべる。 珠はもう一度匂いを嗅いでから、神崎の手の上にのった。 「……!」 神崎は目を丸くして息を飲んでから、ゆっくり珠を抱き上げる。 指先で注意深く背中を撫でてやると、一声鳴いて、神崎の腕の中で丸くなった。 神崎が嬉しそうに俺の方を見る。 「良かったな」 微笑んでやると、神崎はちょっと涙ぐんだ。 この世界から、不幸な子供と不幸な猫がいなくなりますように。

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