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【番外】バッドモーニング・コール(5)
「じゃあ、連れてくるわね」
早乙女先生は奥の部屋に入っていき……ケージを持ってすぐに出てきた。
ケージから取り出したのは、短毛の真っ白な子猫。
「?先生、違うよ?俺が連れてきたのは灰色の……」
戸惑った神崎が早乙女先生を見ると、彼女はにこりと微笑んだ。
「それがねぇ、あの時この子、ものすごーく汚れてたみたいなのぉ。拭いてあげたら真っ白になったのよぉ」
はい、と彼女は神崎に子猫をさしだす。
神崎は恐る恐るそのぐんにゃりした生き物を受け取った。
神崎の手に渡ると、子猫はすんすんと匂いをかぐ仕草を見せた。
「にぃ。にぃにぃ」
か細い声で鳴きながら神崎の手に頭を擦り付ける。
「あらあら。命の恩人を覚えてるのねぇ」
神崎は何も言わず、黙って目を丸くして子猫を見つめている。
「目が綺麗でしょ?義眼も特注よぉ」
言われて俺も子猫を覗き込んだ。
瞳孔を境に目の色が変わっている。
内側はブルー、外側はグリーンだ。
「名前、変える」
神崎が子猫を見つめたままぽつりと呟いた。
「宝珠の珠で『たま』にする」
「あらぁ、綺麗な名前ねぇ。ぴったりじゃない。えぇと、このタオルも差し上げるわぁ。ずっとこれで寝てたから、新しいおうちに行っても少しは安心すると思うの。あと、トイレの砂もね」
神崎はタオルをケージに敷くと、その上に珠をそっと載せた。
「もう少し大きくなったら避妊手術した方がいいわよぉ。あと、鈴ちゃんと一緒に定期的に健康診断にもいらしてね」
支払いをすませてクリニックを後にした。
家に着くと、鈴のと並べてケージを置き、入り口を開け放した。
珠はタオルにもぐり込んだまま、じっと外の気配をうかがっているようだ。
しばらく神崎はケージを見守っていたが、まだ珠が出てくる気配がないので、気にしつつも立ち上がった。
「俺、夕飯の買い物に行ってきます。槙野さん、珠ちゃんのこと見ててあげてください」
「うん。任せろ」
俺は鈴を抱きながら神崎を見送った。
さて……どうしようか。
とりあえず鈴と遊びながら、珠の警戒がとけるのを待つか。
「鈴、すーず、遊んでくれよ」
ソファに座って鈴を撫でるが、鈴も珠が気になる様子で、あまり遊んでくれない。
結局そわそわしたまま神崎が帰ってきてしまった。
「槙野さん、珠ちゃんは?」
帰ってくるなり神崎は珠のケージを覗き込んだ。
「まだタオルから出てこないよ」
「そっかあ……」
気遣わしげにしながらも、神崎は夕飯の支度を始めた。
夕飯を食べて、風呂に入って、寝る時間が近づいても珠はケージから出てこなかった。
「珠ちゃん、寝ちゃった」
「そうか。俺たちも寝ようか」
「うん」
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