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【番外】甘えホーダイ月額キス31回(1)

「あっ! ちょっと岩淵さん待ってください。確認したいことがあるんですけど!」 定時も近い十七時五分、俺は事務室から出て行こうとする先輩社員を捕まえた。 「何、神崎。俺タバコ吸いに行きたいんだけど。後にしろよ」 この人の場合、『タバコ』には雑談も含まれていて、一回三十分以上かかるのは周知の事実だ。 「すぐ終わらせますから。お願いします」 「はぁ」 先輩は返事代わりに、顔を背けてわざとらしいため息をついた。 どうもこの人とは反りが合わない。向こうもそう思ってるだろう。 「坂田くんの帳票作成ですけど、工数間違っちゃってます。0.5人日になってます」 「間違ってないよ。その工数でやって。じゃあな」 先輩はそっけなくそれだけ言って、部屋を出て行こうとする。 「え! 待ってくださいよ0.5じゃ無理です。坂田くん今回帳票初なんですよ? それに新規じゃないですか。もう少し工数あげてくださいよ」 「甘やかすな。今回カツカツでやってんだ、余ってる工数なんてないんだよ。なんか他に黒字案件あんだろ、黙ってそっちにつけとけ」 はぁぁぁあ!? 『カツカツになってんのは、岩淵さんが見積もりで軽く見過ぎたからでしょ!?』 『新人さんいるんだからリスク見てるでしょ!? まさかそれももう使いきっちゃったんですか!?』 って言いたい。その辺に響きわたるような声量で言いたい。言わないけどさぁ。 「……俺は、新人さんに、工数ごまかせなんて言いたくないです」 「あそう。じゃあ0.5でやって。じゃなけりゃお前が代われ。……あ、だめだわお前。お前がやるなら0.2な」 「……0.2って何分ですか」 「知らね。じゃーな」 ◇ ◇ ◇ 「もう! 俺あの人にはついていけません! 意味わかんない!」 「ははは」 その日の就寝前のくつろぎタイムで、俺は槙野さんに盛大に思いのたけをぶちまけた。 槙野さんの膝枕で、槙野さんに頭を撫でてもらいながら、ぎゃーぎゃー喚く。 キャットタワーの上に置いたベッドから、鈴ちゃんと珠ちゃんがうるさいって迷惑そうにこっち見てるけど、知らないもん。 「新人育成する気ゼロですよ、あれ! 信じらんない! 次回どうするつもりなんですかね!」 「そうだな。で、結局今回はどうしたんだ?」 うー。 「不本意ですけど、俺がつきっきりでサポートして、合計……0.5人日で終わらせましたー。ちょっとオーバーした。でもほとんど俺がやったみたいなもんだから、絶対坂田くん手順理解できてないと思う。可哀想ですよ」 槙野さんの指が、最近ちょっと伸びすぎた俺の前髪をすくい上げる。 ついでにその指が俺の額を撫でていって、ごろにゃんと喉を鳴らしたくなった。 「神崎は良い子だな」 「そうですかぁ? 目上に牙剥きまくりですけど」 「でも、最善はつくしたろ? 少しかもしれないけど、坂田くんも何かしら身についたはずだ。それにきっと岩淵さんだって神崎に責められてこたえてるよ」 「うーん。そぉかなぁ」 槙野さんはそう言ってくれるけど、あのふてぶてしい岩淵さんが反省してるところなんて想像できない。せいぜいが、飲みながら、生意気な奴がいてよぉって愚痴をこぼすくらいだろう。 「俺、本当に良い子ですか?」 槙野さんに訊いたら、温かな茶色の眼を綻ばせたうっとりするような笑顔で、頑張ってる良い子だよ、って言ってくれた。 槙野さんがそこまで言ってくれるなら、俺、良い子なのかも。えへ。 相性が悪い先輩のことは、今回は忘れて、次回に期待してやることにしよう! だからさ、槙野さん。良い子にごほうび、ちょうだい?

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