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第6話 天使、約束を守る

 月曜日になり、学校へ行くとなぜかガブリエルの衣装は変わっていた。  少し慌てた様子の文化祭実行委員長が、それではなくこれを着ろと新しい衣装を渡してきたのだ。  はて、とガブリエルは不思議に思ったが、新しいものが可愛いウサギの着ぐるみだったので、一瞬にしてすっかり忘れ、わーいと喜びながら服を脱ぎ着ぐるみを試着し始めた。  ガタガタ!と机と椅子の音が鳴り響き、教室にいた生徒たちが釘付けになっていたという。  教室の真ん中に位置する留学生の席で、金髪の天使はワクワクしながら下着一枚になっていた。 「体育の授業前の着替えはトイレで一人で」と言う約束は守った。    次の授業は国語のはずだ。  他の授業の前にみんなの前で裸になってはいけない、とは言われていない。  人間界のルールはちゃんと守っている。  レオに教わったことはちゃんと守っているのだ。 「ねえ、みんな見て!ぼく、かわいい?」  くるりと一転したガブリエルはピンクのうさぎと化していた。  フッドが付いた着ぐるみは顔と手足以外はすっぽり覆う。フワフワでモコモコした布は肌触りも文句なしであった。 「わぁ!尻尾も付いてる!へへ、見てみて」  ちょうど今遅刻して到着した同級生を捕まえたガブリエルは、自慢げに尻を振ってみた。動きに合わせてフルフルとウサギの尻尾は揺れる。  ”ご愁傷様”とその他大勢は、捕まった同級生に同情の目を向けて思うのだった。 「えーそれでは、文化祭の打ち合わせをしたいと思います。皆さん席についてください」  肌の露出が極端に控えめになった留学生を主人公にこのクラスは演劇の練習を始めることとなった。もちろん、誰もが心の中で「ちっ」と思ったに違いない。だが、委員長は、すごい剣幕で怒鳴り込んできたホームステイ先の男性のことを思い出し、できるだけのことはやったと胸をなでおろした。  ガブリエルの着替え方以外はレオの目論見通りとなり、文化祭は平和に開催されたらしい。  舞台に立つピンク色のうさぎを見てレオは穏やかにほほ笑んでいたはずだ。   【終わり】

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