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第1話
「せっ、せんぱい、!!僕、先輩のことが……!」
放課後、人通りの少ない渡り廊下。
目の前で深々と頭を下げる男の名前を、俺は知らない。てか、耳まで赤くなってる、ガチじゃん。
察しのいい人は気づいただろう。
そう、今日俺は男に告白された。
「…で、逃げてきたの?」
「っわ、わりいかよ!とりあえず謝ったからわかってくれるだろ」
心配そうな直哉に急いで弁解する。
逃げた訳じゃない。そりゃあ、駆け足ではあったけど。
てか、なんだよ、好きって。俺男だぞ。
何故か俺に告白してきたのは確か1年のやつ。
名前は…わからん。
色白で、目が隠れそうな長さの前髪。あとは背がめちゃめちゃ高い……。
それぐらいしか分からない。なんせ知り合いですらない。
あいつの、下を向いていてもわかるくらい真っ赤に染まった耳を思い出す。なんだかひどく胸騒ぎがした。
………
…………………
「あの、有史先輩いますか」
「ゆーし?おーいるぞー」
俺は前の時間に貰った物理のプリントとにらめっこしていた時、直哉に呼ばれた。
「ゆーしくん呼ばれてるぞ」
「ん?おれ?」
なんだろう、他クラスの友達かと思い廊下に出る。って、昨日のあいつじゃねえか!!!!!!
「よ、よお」
よおって…。
自分の挨拶に若干引きながら、しかし言ってしまったものはしょうがない。
「どした…?」
「先輩、昨日は先輩がすぐ帰っちゃったから…その、えっと…話の続きが……」
「っあ、話途中だっけ、わりぃな……」
そうか、あの場が最高に気まずくてそそくさと帰ってしまったが、どうやら話は終わってなかったらしい。
少し申し訳なくなって頭をかく。
「そ、その…僕、先輩に一度助けられたことがあって」
「……ん?お前と俺昨日が初めましてじゃねーの?」
てっきり俺は、昨日が初対面だと思っていた。
第一下の学年のやつなんて、あんま分かんねーし。
「…覚えてませんよね」
そう小さく呟いて、そいつは少し寂しそうに笑った。
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