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神様に問いたい。自分が何をしたというのだ!
「じゃあ、伊藤さん。後はよろしく」
エレナを支えるようにして拓馬はさっさと廊下に出てゆく。その背中をすがるように見ている玲を、にっこりと笑みを浮かべた伊藤がぐいっと引っぱり、事務机の前の椅子に座らせた。蒸しタオルでゴシゴシ顔を拭かれる。
「玲ちゃん、肌がきれいだから軽く粉をはたくだけで十分ね。睫毛も長いわねぇ……。ちょっとシャドウ入れて、マスカラ少しと……、ツケマは一枚でいいか。シャドウはブルー系、髪と目の色が薄いし肌も白いから似合うわよ。ドレスにもぴったり。ルージュはピンク。あと髪型少しいじるね」
早口でしゃべりながら、同じ速さで手早くメイクを施してゆく。ふだんはナチュラルに流しているサラサラの髪をスタイリング・ジェルで固められ、鏡のない事務所で、自分がどんなおぞましいことになっているのかと不安になった。
エレナを救急車に乗せた拓馬がバタバタと戻ってきた。目が合う。
(笑うなよ。笑ったら殺す)
玲の警戒をよそに、拓馬は一度瞬きし、ヒューっと外国の人のような口笛を吹いた。
「伊藤さん、グッジョブ。背格好が似てるって言っても、男の玲にエレナの代役は無理かなぁと思ったけど、これならいけるな。想像以上」
「でしょう? 前々から狙ってたのよ。マジでモデルになれるよ、玲ちゃんは」
レディースのだけどねぇ、と鼻歌まじりに付け足す。
「さすが見る目があるねえ」
ウキウキ話し続ける二人に玲は「嘘だ」と叫んだ。
「嘘だ。騙されないぞ」
「嘘じゃないわよう」
二人は笑いながら声を揃える。
「はい。完成」
「いい、いい。最高」
なんだか空しくなった。いずれにしても、もう逃げられないのだ。やけくそになって、すっくと立ちあがる。
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