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『キャー』  そして現在に至る。  バカな話はやめろ、自分は男だ、エレナのドレスが着られるわけない、横暴、パワハラ、全ての抗議はかすりもせず綺麗にスルーされた。  強制的にドレスに押し込まれる。驚いたことに、サイズは本当にぴったりだった。信じがたいことだが、胸に詰め物をすればあっさりすっきり着ることができたのである。  伊藤、恐るべし。小さいとはいえ、モデル事務所を一人で切り盛りしているだけのことはある。感心している場合ではないのだけれど。 「どうせドレスで隠れるし、このまま行くか」  シューレースを緑色に替えた青いキャンバス地のコンバースのローカットを拓馬が指差す。  玲は足のつま先をぎゅっと握りしめた。 「やだよ。セレブのみなさんに見られでもしたら、どこの穴に入って隠れりゃいいんだよ」 「ドレスの裾が広いし、普通に立ってれば見えないわ。パーティーは立食なんでしょ?」  伊藤、人の話を無視するな。 「時間がない。そろそろ行くぞ」 「社長、肝心のモノ!」 「わかってる」  拓馬は頷き、金庫の鍵を開けた。アイスブルーのエナメルケースが中央に鎮座している。  それを取り出し、蓋を開ける。きらめく光の雫が現れた。  ――『サンドリヨンの微笑』。  『ジュエリーSHINODA』の社運をかけたダイヤモンドのネックレスだ。  総数二百個をこえる最高品質のダイヤが、レースを編んだように繊細にちりばめられている。一応値段はついているが、桁がおかしい。販売用というより技術と品質を証明する宣伝用アイテム。展示を目的とした芸術品である。 /111

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