6 / 191
【2】-1
夏の終わりの涼やかな夜。
鈍色 の画用紙を貼りつけたような退屈な空を見あげる者はいない。星は全部地上に落ちてそこにはないからだ。
光の海のような夜景に浮かぶ高層階のバンケットホールで、玲は壇上の人物を目で追っていた。経済の専門誌や、最近ではなぜかワイドショーの画面などでも時々目にする姿を、こうして直接目にするのは今回で二度目である。
女性誌のどこかが名付けた『麗しの王子』という綽名 があまりに似合う。すらりとした長身、艶やかな黒髪、夜の海のように深く黒い知的な双眸。男らしさと華やかさを兼ね備えた堂々たる姿はハリウッドスターのようだ。銀色のライトの下で星のように眩しく光り輝いている。
(カッコイイなぁ……)
ぼうっと見惚れていると、ふいに壇上の男と目が合った。心臓が跳ねる。
ほんの一瞬、男の目が見開かたような気がした。おそらく気のせいだろうけれど……。
しかし、同性でもドキドキしてしまうほど魅力的だ。鼓動の静まらない胸を押さえて、玲は改めて思った。
(カッコよすぎる……)
中空の庭園を抱く豪華なバンケットホールには、各界の著名人に混じってマスコミ関係者や芸能人、各種ブランドのショップモデルなどが美しい衣装を纏って笑いさざめいている。誰もかれもがまばゆいセレブである。
そんなセレブたちの視線から逃れたくて、玲は拓馬の後ろに隠れるように立っていた。黒いタキシードに長身の身体を包んだ拓馬も、立派なセレブの一員だ。ちょっと羨ましい。
拓馬が玲を前に押し出す。
「何するんだよ」
「おまえこそ、こそこそ隠れててどうするんだよ」
耳元に顔を近付け、拓馬が囁く。
ともだちにシェアしよう!