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「いいか。食事が始まったら、なるべく目立つように歩き回れ」 「ええっ?」  周囲の女性の視線がちらりと向けられる。ごく自然な笑みを浮かべて拓馬は会釈した。彼女たちの頬がかすかに上気する。玲はうろんな目でそれを眺めた。  自分の容姿やいかにも爽やかなそうな笑顔もしっかり武器にしてしまう。拓馬は根っからの商売人だ。 「とにかくダイヤを見せびらかすんだ。目立て」 「やだ。男だってバレたらどうするんだよ」 「大丈夫だ。嘘みたいに似合ってるから」 「嘘みたいって、嘘だな」 「嘘じゃない。だいたい、なんのためにそんな格好したと思ってるんだよ。これだけ質のいい客が集まる機会なんて、滅多にないんだからな」 「だけど……」 「だけど、じゃない。腹をくくったんなら、頑張れ。マジで似合ってるから、自信を持てって」  小声で囁きながら、拓馬が高価なネックレスを軽く指先で摘まみあげる。光の粒がきらり零れ、周囲に反射した。  視線を感じて振り向くと、『麗しの王子』がじっとこちらを見ていた。鋭い目つきに、玲の顔が引きつる。 「男だってバレたら、どうするんだよ」 「絶対バレないって。ものすごい美女にしか見えない。セクハラされても殴るなよ」 「え……」  真顔で拓馬を見上げた。拓馬はすぐにしまったという顔になった。 「悪い。今のは失言だ。許してくれ」 「……いいよ。あのことは、もう忘れたし。拓馬のお陰で、こうしてなんとかやってるし。本当に感謝してる」  だからこそ、とんでもない格好でセレブの皆さんの間にも立っている。

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