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「うん」  頷いて、拓馬は玲の肩を軽く抱いた。 「悪かったな。だけど、ほんとに似合ってるから安心しろ。今夜は社運をかけた大事な戦いだ。頼んだぞ」  壇上の挨拶が一通り終わり、拍手とともに食事の時間になった。拓馬は玲から離れて、さざ波のように揺れ始めた未来の上得意客の中に溶けてゆく。  唯一の砦だった背中を、玲は涙目になりながら見送った。  もともと喉のふくらみは小さいほうで、顎を引き気味にしていればほとんど目立たない。とはいえ、首元に注目されると息をするのにも緊張する。できるだけ動かず、声もたてず、息をひそめて笑顔を貼りつかせる。  目立てと言われたが、何をどうすればいいのかわからなかった。むしろ人目に付きたくないのが本心だ。葛藤する。  そんな玲の困惑をよそに、『サンドリヨンの微笑』は人々の注目を大いに浴びまくった。 「それ、スワロフスキーやクリスタルじゃなくて、全部、本物のダイヤなの?」 「すごいわね」  直接、ネックレスに興味を示してくる。ショップモデルはマネキンのようなものなのだろうか。ならば大人しくマネキンに徹しよう。 「見事だな」 「綺麗ねぇ」  レースのように繊細なネックレスは全てがFクラス以上の無色のダイヤでできている。  カットはどれもエクセレントかベリーグッド、大きな石のいくつかはアイディアルのものもある。内包物はVVS1からフローレス、一粒一粒が単品で鍵付きケースに並ぶような最高品質のものばかりだ。  それらを集めるだけでも至難だし、さらにバランスを見極め、熟練職人の手で完璧な形に仕立ててある。『サンドリヨンの微笑』は、まさに芸術品と言ってよかった。  会場内の複雑な照明を浴びて輝くブリリアントカットの粒たち。無数のきらめきが周囲に散らばる。淑女たちのため息を集め、燦然と輝く地上の銀河。

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