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【7】-2

 社長が視察に来ると聞いていたのに、実際に現れたのは担当役員の周防智之だった。  それだけで玲の心臓が飛び出しそうになった。  さらに開口一番「こんなところにいたのか」と言われた意味が全く理解できず、ぽかんと口を開けたまま棒立ちになって、周防の顔を見上げてしまった。  周防は不機嫌になった。 「まさか、俺を覚えていないとでも?」  そう言われても、玲には言葉が見つからない。  周防と間近に接したのは、これで三回目だ。過去二回のうち一度は昨日のパーティーで、玲は女装していた。数に入れることはできないだろう。  そうなると、実際にはその前の一度しかカウントできないことになる。そして、その一度というのも入社前の最終役員面接の場でしかない。玲はもちろん周防を覚えているが、周防のほうで玲を覚えているかは、はなはだ疑問である。  それを会ったと言っていいのか考えていると、周防はいっそう不機嫌になった。 「ならば、しっかりと覚えてもらおう。この店の責任者はいますか?」  昼休みで席を外していた葛西に変わり、主任の高山たかやまが慌てて奥から姿を現す。  視察に訪れたのが周防智之だと知ると、一瞬顔を輝かせたが、周防の剣呑な気配に気づいてすぐに表情を引き締めた。 「何か、ございましたか?」  仕事用の落ち着いた声で高山は聞いた。周防も静かに答える。 「ここにいる崎谷玲くんを、少しの間お借りしたい。彼の休憩時間は何時からですか」  オープン初日と言っても、そうそう大勢の客が来るわけではない。 「私と葛西がおりますので、いつでも抜けて大丈夫ですが……」 「そうですか。では、視察を全て終えたら、彼を迎えに来ます。午後いっぱいお借りしても構いませんか?」 「はい。あの……、崎谷が何か……?」  不安そうに玲を見ながら、高山が問う。 「少し、話をしたいだけです」  高山はまだ心配そうだ。状況がわからず、玲も戸惑う。

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