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【10】-2

 ゴンドラの三つの停留所には、ほんのわずかな遊歩道があるだけだった。周囲は全て森。どこまでも続く雨の森。  頂上の街で、不思議な色をしたオパールのペンダントを、母のために父が買った。  バタフライ・サンクチュアリには無数の蝶が飛んでいた。熱帯の植物の間を縫ってドームの中を歩く。姉の白い帽子にオレンジ色のタテハチョウがとまっていた。  玲は蝶のマグネットを買った。二つ。  青く輝く金属の羽。  ケアンズに戻って、玲はあの時のポーターにそのうちの一つを渡した。何か、約束の言葉と一緒に。  そして……。  オーストラリアは、玲の好きな国になった。  夢の中の時間が飛ぶ。  姉の結婚が決まって、久しぶりに四人で出かけた最後の家族旅行。場所はやはりケアンズで、幼い頃には行けなかったカジノを訪れた。  喧騒、溢れるほどの光の洪水。  興奮に瞳をキラキラと輝かせる母と姉。笑顔。誰かの怒鳴り声……。  怒鳴り声……?  はっとして、目を開ける。一瞬にしてケアンズのカジノから戻ってきた玲の耳に、隣室からの声が届く。  誰かが怒鳴っている。意味まではわからない。 (ここは、どこだ……?)  仰向けのまま天井を見上げた。豪華でモダンなシャンデリアが精緻な細工に囲まれて吊り下げられていた。 「あっ!」  飛び起きて時計を見る。それほど長い時間が経っていたわけではなかったが、玲はひどく落ち込んだ。自分の所業に呆れる。 (こんなところで、寝るなんて……)  昨夜はほとんど一睡もできなかった。だが、だからと言って今のような状況で寝るか?

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