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【10】-1
ベッドルームも広かった。
通常のサイズより大きいダブルベッドがゆうゆうと二台、隙間を空けて並んでいる。サイドテーブルとチェストとドレッサー、書き物机、そしてここにも大型テレビ。
やや小さめのテーブルと椅子が二脚窓際にあり、それら全てが余裕をもって配置されていた。
ドアのそばで手持無沙汰に立っていると、バスルームとランドリーに続くもう一方のドアがノックされた。
「はい」
反射的に応えると、制服を着たスタッフが銀のワゴンを押して現れる。
「失礼します」
玲とあまり変わらない年頃のスタッフが、軽食を窓際のテーブルに並べた。
ポットに入ったコーヒーとサンドイッチが二人分。玲はサンドイッチの覆いを残してくれるよう頼んだ。周防が来るまでに乾いてしまったら申し訳ない。
隣室に人の気配があるが、話し声までは聞こえなった。
テーブルの脇に立ち外を眺める。少しの間にすっかり秋色に変わった空が、高く青く広がっていた。大きな窓から見上げていると、その空に自分がぽっかり浮かんでいるような気がしてくる。
淡いベージュのカバーが掛かった広いベッド、そこに浅く腰掛けたところまでは記憶があった。柔らかすぎず硬すぎず、しっかりと身体を支える最高品質のスプリングとマットレスをぼんやりと確かめていた。
そこから後の玲は、いつの間にか夢の中を旅していた。
レインフォレストの上空を鳥のように渡るいくつものゴンドラ。その一つに玲は乗っていた。
サファイア色の羽をひらめかせて、二頭の蝶が森の中を飛んでゆく。
ああ、ここはオーストラリアの森だ。夢の中で玲は思った。キュランダのバタフライ・サンクチュアリに向かう道。小さな黒いゴンドラが、いくつもいくつも頂上まで続くワイヤーに連なり、次々送り出されてゆく。
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