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【9】-4

 リビングの壁、大型テレビの横にあるもう一つのドアを周防が指差す。 「ベッドルームなんだが……」  なぜか心臓がどくんと跳ねた。  唇を噛んで見上げると、周防はくすりと笑った。 「今すぐきみをどうにかしようなんて、考えていないよ」  先のことは約束できないがと言い添えて、玲が赤くなるのを笑って見ている。「たらし」の発動だ。 「そちらに食事を届けさせるから、少し休んでいて。逃げたければ、ランドリーの先にドアがあるからね」 「に、逃げません」 「本当に?」  黒い瞳が、どうしてか少し陰りを帯びる。 「逃げません。そっちの部屋で、待ってればいいんですよね」 「ああ。十五分ほどで済ませる」  玲は頷く。 「いい子で待ってて」  王子の微笑。  無駄にドキドキ騒ぐ心臓を押さえ、玲はもう一度しっかりと頷いた。

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