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【9】-3

 高層階の専用フロアまではわずかな時間しかかからなかった。  廊下の内装からほかの階より豪華なフロアに降り立ち、ふかふかの絨毯を踏んで周防の後をついてゆく。  玲は努めて冷静を装った。  周防グループの役員と二人きりで対面することへの緊張はあまり感じなかった。それなのに、心臓はドキドキしていた。  慣れない空間に身を置いているせいだと自分で自分を納得させる。  廊下の奥のドアの前に立ち、周防がカードキーをセンサーにかざす。ドアを開いて、玲を先に中に入れた。   広いホールがあり、その向こうにリビングルームがあった。十人以上が楽に座れそうなソファがコの字型に置かれている。中央に四角いテーブル。入り口の反対側は大きな窓で、右手の壁に薄型の大画面テレビが組み込まれていた。  左手には十人掛けのテーブルセットが置かれたダイニングが続いていた。そちらもかなり広い。短辺側の一人掛けを背にする形で大きな窓があり、もう一方の一人掛けの後ろは壁で、端にドアがあった。キッチンに続いていると周防が教えた。  ダイニングの壁面にも薄型テレビが組み込んである。  リビングの一角に書き物机があり、デスクトップのパソコンが二台載っていた。それ以外は仕事場らしい気配のない落ち着いた部屋だった。 「入り口は三か所だ。今入ってきたドアと奥のキッチンに一ヵ所、ベッドルーム側にも一ヵ所ある。非常口は部屋を出て右側に進んだ突き当り。いいかな」  玲は黙って頷いた。確かに、これだけ広い部屋ならばちょっとしたパーティーが開ける。ダイニングでは会議もできそうだ。 「好きなところに座って。食事は何が……」  周防の言葉が終わる前に、ドアがノックされた。 「失礼」  玲を残してホールの向こう側に消えた周防は、外の人間と二言三言会話を交わしてから戻ってきた。 「予定にない来客なんだが、会わないわけにいかないようだ。申し訳ないが、少しの間そちらの部屋で待ってもらって構わないだろうか」

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