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 言いかけて、周防が「ああ」と笑う。 「そうか。いや、そうだな。そういう警戒心を持つことは大事だ」  大事だ、と繰り返し、可笑しそうに笑い、何度も頷く。周防の様子を見ているうちに、玲は自分の勘違いに気付いて恥ずかしくなった。 「俺、……ぼ、僕は、ただ……」 「ああ。わかっている。期待に沿えなくて申し訳ないが」 「期待なんかしてません!」 「そうなのか? それは残念。期待してくれるなら、前向きに応えたいんだが……」 「だから、期待してません」  キラキラの笑顔で見つめ返される。やはり天性の「たらし」だ。この男は危険だ。  頬を赤くしながら、玲は周防から目を逸らした。  そのやり取りのせいですっかり空気が和んでいた。葛西と高山もほっとしている。 「午後いっぱい、僕を借りるといいました。なのに、時間が厳しいって……」 「確かに矛盾しているな」  周防が簡単に事情を説明した。  一泊二十万前後の上位ランクのスイート・ルームをビジネスシーンで利用してもらうため、リニューアル・オープン後の一、二週間、デモンストレーションを兼ねて、周防自身がそこを拠点に仕事をしているという。 「ビジネスランチ、ディナーパーティー、小規模な会議などに対応できる。意外とコスパがいいと広まれば、稼働率が上がると思ってね」  最上位クラスの「プレジデンシャル」「インペリアル」など冠が付く部屋にも同様のニーズが生まれることも期待できると続けた。 「それで、午後にもいくつか来客の予定があるんだ。すまないが、その合間に少し話をさせてほしいと思っている」  何を話すのか確認したかったが、時間がないと言っていたことを思い出し、ひとまずついていくことにした。実際に話してみればわかることだ。わざわざ今聞く必要もない。  葛西と高山に見送られ、店の正面出口からストリートに出る。  ストリート側のエントランスからロビーに入り、奥のエレベーターに乗りこんだ。  周防が専用のカードキーをセンサーに押し当てた。数字が一つだけ光り、それを押す。四角い箱が滑らかに上昇する。二人きりの空間を意識しないように、玲は周防から目を逸らした。

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