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【9】-1

「待たせたかな」  周防が『SHINODA』に戻ってきたのは、正午をまわった頃だった。同行していた秘書や部下の姿はなく、周防一人が店の中に入ってくる。  葛西と高山が見守る中、玲はカウンターを出て周防の前に立った。 「君の意思を聞いていなかったな。食事を一緒に取りたいが、都合はどうかな」 「と、特に、問題はないかと……」  玲の答えに周防はにこりと笑った。破壊力のあるキラキラの笑顔だ。王子の微笑。葛西と高山がカウンターの奥で息を飲み、手を取り合ってうるうると目を潤ませる。 「あ……」  パテック・フィリップの腕時計に目をやり、周防が「しまったな」と眉を寄せた。 「こちらから誘っておいて申し訳ないんだが、実は少し時間が厳しい……」  上の階に用意してある執務用のスイートに同行してもらえるか聞かれ、玲は困惑した。 「ホテルの、部屋にですか……?」 「ああ。悪いんだが……」 「どうしても?」  顔を曇らせる玲に、周防が心配そうな目を向ける。 「何か問題があるのか?」  ある気がする。  玲は考えた。周防は午後いっぱい玲を借りると言っていたはずだ。時間がないから部屋に来いというのは、その言葉と矛盾する。  葛西と高山が心配そうにこちらを見ている。ホテルの重役である周防の機嫌を損ねるのはまずいと思っているのだろう。  しかし、玲は、勇気を振り絞って聞いた。 「へ、部屋に行って、何をするつもりですか」 「何、とは?」  見た目に騙されてはいけない。目を眇めて『麗しの王子』の美しく整った顔を見据える。  この男は、出会ってすぐのモデルを誘惑し、高価なネックレスをサクッと奪った天性の「たらし」だ。 「何をするんですか」 「だから、食事を……」 「本当に、食事だけですか?」 「ああ。ほかに何を……」

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