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【11】-1
軽くドアがノックされ、返事をする前にそれは開いた。
「起きたのか」
「え……」
玲は顔をヒクリとひきつらせた。寝ていたことがバレている。なぜだ。
「一度覗いたんだ。これを取りに来た時に」
ホテルの重役である男は笑い、仕立てのいいスーツの内ポケットから何かを取り出した。
きらりと零れる光の塊……。『サンドリヨンの微笑』だ。
この人は、どうしてこれを拓馬に返さなかったのだろう。どうして直接「レイ」に返すなどと言ったのだろう。
頭の中で繰り返し考えた。
どうして、周防はネックレスを……『サンドリヨンの微笑』を奪ったのだろう。
奪ったのがほかの人間だったなら、理由も多少は思いつく。人の道をおかしくしても不思議でない価値がこのネックレスにはあるからだ。
けれど、周防に限ってその動機は当てはまらない。謝礼が目的ということもありえない。
「拓馬に……」
「拓馬?」
周防の顔から笑みが消える。眉間に皺をよせ、「ああ……」と頷いた。
「ジュエリー『SHINODA』の社長か……、篠田拓馬」
玲が頷く。
「彼が、何か?」
「どうして、拓馬に返さなかったんですか」
「ネックレスをか? 返さなかった理由なら、いくつかある。一つは授業料のようなものかな」
「授業料?」
座るようにと周防に促され、手前のベッドに腰を下ろした。
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