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【13】-3

「社長から、何か聞いてないの?」 「えーと……」  また電話が鳴る。 「早急になんとかしてもらわないと、営業に差し障るわ」  ひっきりなしに鳴る電話を受けながら、本社やほかの店舗にも同じような問い合わせが来ているのだろうと考えた。  誰もが消えたシンデレラを探している。「レイ」が現れない限り、おそらく騒ぎは拡大し続けるだろう。  やはり、玲がもう一度「レイ」になって周防のところへ行き、ネックレスを取り返してくるしかないのかもしれない。  ぎゅっと目を閉じて想像する。 『おんなおとこ』  幼い日の心無い揶揄の言葉が耳によみがえった。  理不尽ないじめの言葉は、なかなか消えることがない。トラウマになっていつまでも残っている。  太った子どもに「デブ」と言い、たくましい子どもに「ゴリラ」と言い、小柄な子どもに「チビ」と言う。子どもは残酷だ。  どんな場合でも、容姿を引き合いに出されて笑われた記憶は、子どもの心に深い傷を残すのに。  大人でも、あるいは同じなのかもしれないけれど。  髪が薄いことや歯が大きいこと、そのほか容姿をネタにした笑いが、玲はあまり好きではない。本人が納得し、それを商売道具にして笑いを取っているとわかっていても、心がひゅっと冷たくなる。  芸人でもなんでもない人が、同じネタで笑われるのを見ると、やりきれない気持ちになる。  太っていることやたくましいことや小柄なことや髪が薄いこと、歯が大きいこと、女の子のような容姿、それら自体は何も悪いことではないのに、それを笑う者がいるから傷つく。 『なあに、あれ』  エレベーターホールでの嘲笑を思い出し、みじめな気持ちになった。

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