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【14】-5

 背筋を悪寒が走り抜ける。 (こいつ……っ)  手を引こうとすると、背中に手を回され身体ごと引き寄せられた。 「あのさ。上に、部屋が取ってあるんだ。よかったら、この後どう?」 「何を……」 「とぼけなくていいよ。なんだか寂しそうに立ってたから、気になって入ってみたんだ」  なぐさめてあげるよ、と自信たっぷりに囁かれて、全身に鳥肌が立った。 (何が、なぐさめてあげるよだっ!)  どいつもこいつも、ふざけるな。なぜいきなり、人をおかしな目で見るのだ。玲の知る限り、女性でもここまであからさまに失礼な態度を取られることは稀なはずだ。  悔しさで泣きたくなる。 「申し訳ありませんが……」  可能な限り丁寧に断り、相手の身体を推し返した。しかし、男は一向に玲を離そうとしない。しかも、けっこう力がある。 「ここの部屋、かなりいいんだよね。見てみたいと思わない?」  顔を近付けられて吐き気がした。  殴りたい。  強い衝動が芽生える。  次の瞬間、奈落の底に落ちるような後悔がよみがえった。 (ダメだ……)  怒りの炎の中に氷のように冷たい楔が撃ち込まれる。 (ダメだ。ここで殴れば、また仕事がなくなる。それに、拓馬にも迷惑が掛かる……)  殴るな。我慢しろと、自分に言い聞かせる。  しかし……。  尻を撫でられて、全身に鳥肌を立てて飛び上がった。 (気持ち悪いんだよっ!)  もう、限界だ。  そう思った時、男の身体が唐突に宙に舞い上がった。

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