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【15】-1
仁王立ちする長身のポーターの足元で、サラリーマンが大の字に伸びていた。
「さっさと失せろ」
ポーターがスーツの脇腹を蹴る。
玲は恐る恐るポーターの袖を引いた。
「まずい。やめよう」
「構うものか」
もう一度男を蹴って、ポーターが振り向いた。
どこかで会ったことがある。瞬間的にそう思った。懐かしい記憶が脳裏に浮かびかける。
けれど、黒い瞳に見据えられ「あっ!」と叫んだ途端、それはどこかに消えてしまい、かわりに玲はその男の正体を認識した。
「す、周防、とも……っ」
外の通りをガードマンが二人走ってくる。周防が頷くと、二人は店に駆け込み、すみやかにスーツ男を回収していった。
「何やってんの?」
思わずタメ口で聞いていた。なぜ、ポーターの制服など着ているのか。
「そっちこそ、何をやってるんだ。ふだんと違う人間がうろうろしてたら、もう少し警戒しなければ、だめじゃないか」
「お、俺のせいなの……?」
玲は目を見開いた。
何もしていないのに知らない男に狙われるのは、全部玲のせいだと言うのか。
なんだか急に何もかもが嫌になった。我慢できずに目にいっぱい涙をためてしまう。
周防が慌てる。
「い、いや、違う。そうじゃなくて……」
「俺が、何したって言うんだよ……」
ぽろぽろと涙が零れ落ちた。
「玲……」
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