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【18】-2
身を起こした周防にさらりと髪を撫でられた。時計を見る。
まだ七時だ。
しかし、周防はさっさとスーツに着替え始めている。仕方なく玲も起きだし、前日ハンガーにかけておいたシャツとスラックスを、もそもそと身に着けた。
完璧な形状のオムレツとベーコン二枚が載った皿が、丸いパンと一緒に運ばれてくる。ポットにはコーヒー。サラダとヨーグルトとキウイフルーツ。
それらを寝室の小さなテーブルで向かい合って食べた。
「ユリシスの伝説を知っているか」
周防が聞いた。
玲は首を振った。そうかと頷き、それきり何も言わない。知らないのなら知らないでもいい、特に構わない。そんなスタンスだ。
「あの、ネックレスは……」
今度は玲が聞いた。
「昨夜のあれで、返すと思うのか?」
「お、思いません……」
だよな、と片方の眉を軽く上げて、周防が玲の顔を見る。
「だが、そうだな……。玲次第では、もう返していいのかもしれないな。玲がどこにいるのかもわかったし……」
「本当に?」
「玲次第では、だぞ」
じっと周防の目を見た。次の言葉を待つ。
「篠田と相談して、考えておく」
「拓馬と……」
「それで、いいんだろう?」
玲の返事を待たずに、周防は席を立った。
「余計なことに時間を使ったから、仕事がたまっているんだ」
「あ……、ごめん……」
「何が?」
「昨日、いっぱい時間取らせて……」
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