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【18】-3
「ああ、そうじゃないんだ」
周防は慌てたように玲の側に回り込んできた。
「玲との時間は、僕が望んだものだ。そうではなくて、内部調査などと言って、好き勝手をしていた時間のことだよ。玲……」
玲の前にかがみこみ、謝ることはないのだと言って玲の手を握る。
「また、誘うよ」
「また……?」
「ああ。次は、もう少し先に勧めると嬉しいけどな……」
赤くなる玲を見て、周防は笑った。指先に小さくキスを落とす。
「いい子でいるんだよ」
ぽんと頭を撫でられる。
何をどう受け止めればいいのか、玲にはよくわからなかった。
ホテルを出る時に、通りに面した直営のコンビニで『周防グループ』のハウスワインを買った。
南オーストラリア州のファー・ノースで造られているシラーズという品種の赤で、生産量は少ないけれど、とても良質なワインだと紹介されていた。
テロワール、土壌と言う言葉を目にして、かの国に思いを馳せる。
レインフォレストの深い緑。その上をどこまでも、離れず一緒に飛んでゆく青く輝く二頭の蝶。
あれはオオルリアゲハだと、昔、誰かが教えてくれた。
別名、ユリシス。
『ユリシスの伝説を知っているか』
周防の言葉を思い出し、軽くスマホで検索してみる。
一日に三回見ると幸せになれるとか、一回でも幸せになれるとか、二回見たら不幸になるとか、三回見ると金持ちになれるとか、さまざまなバージョンがある。
どれも日本人観光客向けに近年になって語られ始めた「なんちゃって伝説」らしい。
美しい蝶なので、そんな伝説が欲しくなる気持ちもわかる。
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